劇場公開日 1954年4月26日

「ルーツ」七人の侍 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ルーツ

2020年7月11日
PCから投稿

現代を生きるわたしたちがシェイクスピアを読んでも、そこに普遍性を感じない。けっこうややこしいストーリーを持っていて、むしろ一風変わったドラマに感じられる。でも黒澤明には普遍性を感じる。全部入っている気がする。元となるものがそこにある気がする。

こんにち誰がつくった映画にも、意識と無意識にかかわらず、黒澤明の影響があると思う。そこまで普遍的なものを知らない。絶対で、何か/誰かと比較のしようがなく、かつ総てに通じる。

海外誌が編集した歴代映画100選のこの映画の選評に、ブロックバスターであり、かつアートハウスでもある、という言い回しがあった。ミーハーな庶民も、こまっしゃくれた映画通も、どっちも喝采する映画だという意味で、黒澤明の普遍性を簡潔に言いあらわしていると思う。

社会から高潔という形容の対象がいなくなってしまっても七人の侍のなかにはいる。わたしはいかなるメディアでもこの映画の久蔵/宮口精二より高潔なヒーローを見たことがない。

2015年のアメリカ映画mifune the last samurai。三船敏郎のドキュメンタリーだが、無数の魅惑的な未公開画像が出てくる。そこで、撮影中なのだろう、はしょりの甚平でラーメンを食べている三船敏郎の写真を見た。舞台裏の姿がとても印象的だった反面、侍たちの活躍もつくりものだということに気づくのである。

映画といえども、人がつくったものだ。あたりまえのことだが、それが映画であれ音楽であれ、あるいは小説、彫刻、絵画、漫画、ほかの何であれ、誰かがつくっている。そして人は人の創造物を愛でる。わたしを含め、世界じゅうの人々にとって、誰かの創造物を愛するきっかけが、黒澤明またはその亜種だった可能性がある。

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津次郎