仕立て屋の恋のレビュー・感想・評価
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デバガメ潔癖禿男の偏愛に涙
前科者の陰キャで近隣住民から毛嫌いされてはいるが、生業の仕立て屋の腕前は超一流。
そんな人間嫌いで異様なまでの潔癖症のイールの楽しみは、プロ級の腕前のボーリングと、毎夜向かいの家の女性アリスを覗き見るコト。
明かりを消し、常にブラームスのピアノ四重奏曲第1番ト短調をレコードで聴きながら、恋心を抱く彼女の部屋を覗き見る...青っ白い小太りの中年禿男に似つかわしいルーティン。
したたかなアリスに嵌められるも、愛した女性と一時でも同じ時間を共有できたと「笑うだろうが、僕は君を恨んでいない。死ぬほど切ないだけだ。でもかまわない、君は喜びをくれた」と刹那に散っていくイールの漢気に涙。
マイケル・ナイマンのピアノの旋律も物悲しい。
愛は自己愛
ある女性の部屋を覗き見している男。
男は覗き見していた女のことをいつの間にか愛するようになります。
男の愛は日に日に大きくなり、「私の人生を捧げる。」というところにまで膨らんでしまいました。
男は女への「愛」という思い込みにより自滅し、女は男からの「愛」という思い込みを利用します。
なぜそれほどまでに、男は女を愛したのでしょう。なぜそれほどまでに、男は女に執着したのでしょう。
パッとしない人生を全て捧げるほどの原動力を男は欲していました。原動力は「自己愛」を満たしてくれます。女は自分の人生を変えてくれます。
だからこそ、彼は女への愛が必要だったのではないでしょうか。
ルコントは一貫して、愛は「自己愛」であるということを描いてきました。男女は潜在意識の中で、自己愛を満たす道具として存在しています。
愛という幻想によって、男は一瞬だけ夢が見られました。一瞬だけでも夢が見られるのも、愛がなせる技なのです。
官能を感じるとすればナイマンの音楽だけ。
本当にごめんなさい。
切ない恋、純愛とか言われる「仕立て屋の恋」なんですが。
官能とか、耽美とか言われる「仕立て屋の恋」ですが。
主人公が健気で、愛嬌があるとか、可愛いとか言われたりする「仕立て屋の恋」ですが。
ごめんなさい。
もう、何度観ても鳥肌しか立たない。
今日も観なくちゃいけなくて、観たけど。
やっぱ、鳥肌。うわわわって思ってしまう。
特に、イールがボクシング観戦中に、アリスの腕とか、ブラウスの隙間に指を入れるところとか、もう、本当に、本当にぞくぞくする。
生理的に、無理。
本当にごめんなさい。
あと、イールが娼婦とのエッチの仕方とか語るとこ、もう悲鳴しか出ない。
ごめんなさい。
好きな男の為とはいえ、アリスよく我慢できたなぁ。
酷い女とか言われますけど、いやだってイールだもの。
頑張ったって!
官能を感じるとすれば、ナイマンの音楽だけです。
覗きの代償
偏屈な仕立て屋のイールは周囲と馴染めず孤独な毎日をおくる。
そんな彼の唯一の喜びは、美女アリスの部屋を覗くこと。
出来心で覗いた彼は、彼女の秘密を目撃してしまう。
そこから、彼はアリスへの愛と共に転げ落ちてゆく・・・
彼のたたずまいはハゲで背が低くてどこか微笑ましい。
本能的に愛せなと前提された男でも女は賛辞を甘んじて受ける。
虚栄心を満たしてくれる男に対価として女の中を泳がせるのだ。
アリスは女を総動員し、彼を愛の喜びで満たし翻弄する。
まるで食べない獲物を弄ぶ猫のようだ。
彼自身の屈託のない愛に満足し、悔いはなければ良いが。
ラストは観客の心臓を直にわし掴むような疼きで支配される。
映像・音楽・演出が秀逸で監督のこだわりを感じる。
恋に殉じた男
思いを貫く男とも言える。外見は物静かで普段着のトラディショナル・スーツ姿が彼という人を物語っている。ある事件から周囲の人にも受け入れられず、一見人間嫌いのような風情でいて、しかし内面はそれとは裏腹に、静かに決して消えることのない慕情を人に対して抱き続けている、そんな印象を受けた。
アリスとのこともそうだが、大切に飼育していたハツカネズミを、線路の上に餌をばらまき、ケージの扉を開けて逃がしたあのシーンが強烈で、忘れがたい。彼はそういう人なのだと思わせてくれた。
この作品は殺人の犯人探しのサスペンスが絡んではきているが、それ故にアリスも仕立て屋もその犠牲の悲劇性を拭えない。
が、そんなことはこの際どうでも良い。
ひとりの男の恋の在り方に観客は打ちのめされるのだから。
窓を介しての「見つめる」「見られる」この繰り返されるシーンがどきどきしながらも、美しかった。ブラームスの静かな音色にのせて、冷たい空気感の中に身を置く男、あるいは女の悲しみが美しかった。
ルコント作品、やはり良いです。(3.8点)
ルコントさん、病んでます
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