「イタい人生だけれど」仕立て屋の恋 あまおとさんの映画レビュー(感想・評価)
イタい人生だけれど
印象に残る映画だった。
最初は変質者の話かと思って引き気味でみていたけれど、見ているうちにサスペンスのように怖くなってきた。そしてラストでなんとも言えない気持ちに。
主人公はハッキリ言ってイタい。風貌も言動も、ちょっと見ていられないレベル、と私的には思う。(俳優さんの顔立ちだけはいいと思うけれど)そんな彼が、どんな過去を持ち、どのような心情を抱いている人間なのか、後半になると少しずつ露呈してくる。それにつれ、彼を応援、とまではいかないけれど、先がどうなるのか気になってきてしてしまった。
彼は、正直で、ピュアで、ひどくナィーブな神経の持ち主かと思う。娼婦の前でのおしゃべりからすると、大人の女については特別に複雑な思いがあり、自分の中のジレンマに苦しんでいるらしい。
そのナィーブさは彼の世界を狭くしてしまい、人の心情には疎くて、結果的には彼女の心情をミスリードし、自分に都合の良い妄想を先走らせ、不幸を招いてしまった、と思う。
最後まで得られなかった幸福。暗い人生、悲しい最期。観ている方も辛い。
二人とも、幸せになりたいと考えて思い切った行動をしただけ。でも、女のほうが、よりしたたかだった。一方、仕立て屋の方は、女の心理や好みに疎かった。
彼は、あれほど警戒していたはずの「女」にヒドイ目に合わされることになってしまった。現実は厳しかった。
それでも「幸せを少し感じられた」と彼女に告げる。あの場面は、痛々しい。
でも、人生は、たとえ傷ついても、何もしなくて何も残さないより、思い切ってやってみて何かを少しでも得た方がいいのだ、と、仕立て屋の行動がイタいと思いながらも、彼の選択と心情に納得もできる。
メンタルがいまいちな人に丁寧に焦点をあてているという点で、このストーリー、そしてこの映画は、優しさを感じる。