理想の女(ひと) : 映画評論・批評
2005年9月13日更新
2005年9月10日よりシネスイッチ銀座ほかにてロードショー
善い女、悪い女、善と悪とはそんなに明快に分かれるものか
若く貞淑な新妻の前に、ある日突然現れた評判のよくない年上の女性。夫が彼女に小切手を渡しているのを発見したことから、純真なウィンダミア夫人の胸にさざ波が立つ……。オスカー・ワイルドの戯曲「ウィンダミア卿夫人の扇」は19世紀ロンドンの社交界を舞台に、若き人妻の1日の心の動きをリズミカルに描いた傑作だ。この映画化では舞台を1930年代、南イタリアの高級リゾートに移し、映画的な見せ場と単純化を施しているが、原作のエレガントで皮肉な味わいは変わらない。
まだ少女のようなウィンダミア夫人をおびやかす、あだっぽいアーリン夫人。この熟女の正体は、夫との関係は、という謎解きがまず面白い。そして、映画の原題であり、原作のキーワードでもある「グッド・ウーマン」=善良な女とは、というテーマ。善い女、悪い女、善と悪とはそんなに明快に分かれるものか。
対照的な2人の女性の人生が一瞬交差し、のっぴきならない結末にもつれ込むのを「扇」という小道具が救うとき、アーリン夫人の真情も知れる。そのとき、あなたの胸は切なさでいっぱいになるだろう。夫人の複雑な内面をからりと粋に演じたヘレン・ハントが見事だ。
(田畑裕美)