グッドナイト&グッドラックのレビュー・感想・評価
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【近代アメリカ史の汚点であるマッカーシー上院議員による赤狩りに対し、自身の報道番組で公然と批判したアンカーマンとそのスタッフの姿を描いた社会派作品。TVのあるべき姿を描いた作品でもある。】
■1950年代の米ソ冷戦下のアメリカが舞台。
マッカーシー上院議員が強硬に共産主義者を弾劾する「赤狩り」が全米を恐怖に陥れていた。
彼らは共産主義者とみなした者を根拠なく推論で次々と告発する。
彼の報復を恐れる多くのマスコミが見て見ぬふりをする中、テレビ局のキャスター、エド・R・マロー(デヴィッド・ストラザーン)は自身がアンカーマンを務める番組”シー・イット・ナウ”の中で、冷静にマッカーシー批判を行う。
だが、それに対しマッカーシーからの根拠なきエド・マローへの批判や、局長からも”視聴率が取れない。”と言われてしまうのである。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・今作は今から20年前の作品であるが、現況下のTVの在り方への問題提起にも見えてしまう。
・テレビ局のキャスター、エド・マローや彼の右腕のスタッフ、フレッド・フレンドリー(ジョージ・クルーニー)や、ジョー・ワーシュバ(ロバート・ダウニー・Jr)や局内で禁じられていた局員同士の結婚をしていたシャーリー・ワーシュバ(パトリシア・クラークソン)達は、公然と且つ冷静にマッカーシー批判を行って行くシーンは痛快である。
・そして、劇内でも当時の映像として描かれているが、マッカーシーが共産主義者として告発したアニー・リー・モスが、その事実は無根であると証明されるシーンを代表としてマッカーシーが捏造した事実が覆り、彼が窮地に追い込まれて行く様も、淡々とモノクロで描かれる。
・だが、今作はエド・マローや彼のスタッフ達の勝利として描かれるわけではなく、ジョー&シャーリーが社則の禁止行為を行った事で、馘首されるシーンや、共産主義者として誹謗中傷されたキャスターのホレンベック(レイ・ワイズ)の自殺なども、情報として伝えられるのである。
■今作で、時折ロイ・コーンの名が出るが、ご存じの通り彼はマッカーシーの右腕で有った相手を攻撃し続ける悪徳弁護士として名を馳せた人物であるが、彼に若い時に師事したのが、現在のアメリカを統べる男である事は、非常に重要であると思う。
ロイ・コーンが現在のアメリカを統べる男へ教えた事とは、
1.攻撃、攻撃、攻撃
2.自分の非を絶対に認めない
3.自分の勝利を主張し続ける
である。そして、現在のアメリカを統べる男がそれを忠実に実行し続けているのは、現代に生きる誰もが知っている事である。
<今作では、エド・マローや彼のスタッフ達が報道番組内でマッカーシーと戦うシーンと、その数年後”エド・マローを称える会”で彼がスピーチするシーンが冒頭とラストで描かれる。
特にラストでの彼のTVの在り方について述べるシーンは、現代のTVの在り方にも十二分に通用する値千金の言葉に満ちているのである。>
芸達者が多くて大昔の映画を観ているような心地よさ
1950年代前半のアメリカのテレビ界で、海千山千の報道記者達が赤狩りの旋風と果敢に闘う姿を全編モノクロで描いています。
役者も芸達者が多くて、大昔の映画を観ているような心地よさがあります。
監督のジョージ・クルーニー自身も、報道番組のプロデューサーという重要な役で出演。
「ジョン・トラボルタ」が、赤狩りの時代を後世からの俯瞰で描いているのに対して、この映画は同時代的な視点で描いている感じでした。
その点、あの時代のアメリカ社会の基礎知識が少ないと、中盤はついて行くのがつらくなる。
全体的に格調が高くて悪くない映画だけれど、物語の流れにノリノリになれる時間が私には少なかったのは残念でした。
終盤は、マッカーシー上院議員との鞘当てで盛り上がるので、また気持ちが昂るけれど。
ジャーナリスト魂
タイトルはCBSテレビ「See It Now」のキャスター、エド・マローの番組の締め言葉。番組は毎週火曜日22時半~23時までの30分、時事ネタを掘り下げる硬派な報道番組でした。エド・マーローはラジオの記者時代にロンドン空襲をアメリカに実況中継したことで名を馳せた生粋の放送ジャーナリスト。
当時、ソ連による核実験、中国の台頭や朝鮮戦争などで共産主義への脅威論が高まっていたことを背景にウィスコンシン州選出の共和党上院議員ジョセフ・マッカーシーが扇動した赤狩り(共産主義者排除運動)に唯一正面切って批判を行ったのが「See It Now」でした。映画ファンならハリウッドの才能ある多くの映画人が追放の憂き目に合された話の方でお馴染みでしょう。「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」にもエピソードが描かれていますね。
番組が取り上げたのがミシガン州空軍のマイロ・ラドゥロヴィッチ中尉の除隊騒動、肉親に共産主義者がいるとの告発で裏付け調査も無く一方的に解雇されたという地元新聞の記事に触発され調査報道に乗り出した。なんでも父親がユーゴスラビアの新聞を読んでいたというのが根拠のようだが、父親が唯一読める新聞だっただけで思想とは関係ないことがわかり後に解雇は撤回された。要するにマッカーシーは十分な調査もせず勝手に決めつけているだけということが明らかになり失脚するのだが番組が果たした役割も大きい、テレビ・ジャーナリズムの確立がなされたエピソードといってもよいでしょう。CBSニュースには放送素材は編集したことがわかるような繋ぎ方でなくてはいけないとか、BGMでの感情操作の禁止など細かい規定がありテレビ報道の手本とされています。
映画はまるでドキュメンタリーのように関係者を淡々と描きます、この辺の作風は新米監督のジョージ・クルーニー流と言うよりプロデユーサーのスティーブン・ソダーバーグの味付けなのかも知れませんね。
モノクロの渋いタッチでしたがふんだんに挿入される資料映像とのマッチングで白黒で撮ったのでしょうか、マッカーシーは本人でしたね。
時折挿入されるダイアン・リーヴスのJAZZボーカルがこれまた素敵な大人の映画でした。
まあ地味かな。。。
1950年代アメリカの「赤狩り」マッカーシズムに挑んだテレビ番組を取り上げた作品。
共産主義に対してヒステリックになっている風潮の中、マッカーシーの問題点を淡々と指摘し続け、非難に対しては冷静に反論する、そんなアンカーマンのマローはまさにあるべきジャーナリズムの姿を表していて、格好良くすらある。
とはいえ、映画としてはとても地味で、大きな盛り上がりはほぼない。
変にドラマチックに演出すると、かえってマローのキャラクターを踏まえたこの映画の雰囲気を壊してしまうので、これは仕方ないのだろうけど、この長さ(90分)で限界。
予備知識なしに観たのだが、これがジョージ・クルーニー監督作品であったことを後で知り、とても驚いた。
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