「絶賛はしないが、見る価値のある名作だと思う。」グッドナイト&グッドラック 瀬戸口仁さんの映画レビュー(感想・評価)
絶賛はしないが、見る価値のある名作だと思う。
「赤狩り」が吹き荒れる1950年代のアメリカで、「マッカーシズム」に公然と立ち向かったCBSのキャスターとスタッフたちの姿を描く。
赤狩りは、米国ではとても知られた話だし、本作では前提となる説明などが無い。私たち日本人が鑑賞する場合は、一定程度の予習というか、時代背景や知識を知っておいた上で見たほうがいいね。
全編モノクロで、劇中を通じて流れるジャズが、時代の雰囲気を醸し出し、題材の割には重くなり過ぎず、映画の流れを音楽に乗せている。
こうした演出が効果的だったかどうかはともかく、いわゆる従来の一般的な実録ドラマ、実話ものとは一線を画したかったのだろうとは感じた。
実在のキャスター、エドワード・R・マローを演じたのはデヴィッド・ストラザーン。本作が監督2作目だったジョージ・クルーニーも、マローとともに共同プロデューサーだったフレッド・フレンドリーを演じている。
キャスト陣はみな好演で、素晴らしいアンサンブルキャストが本作の価値を高めている。個人的には、『アンタッチャブル』から注目していたパトリシア・クラークソンが、ロバート・ダウニー・Jr演じるスタッフの妻役で出てきたのが嬉しかった。
マッカーシーだけは、実際のアーカイブに基づく、本人の映像を使っている。
主人公たちは人権侵害や権力乱用を取り上げており、本作の大きなテーマだ。それと同時に、娯楽を否定するものでは無いが、テレビがそればかりで溢れかえり、多くのひとが知るべき真実を、国民に伝えていないのでは無いかという危惧を、本作から強く感じた次第だ。
例えば、マロー達が立ち上がった時、既にいくつかの非難が行われていており、彼らの功績は大いに評価されるべきだが、彼ら「だけ」が過大評価されているのではないかなど、史実との対比で、異なる点を指摘される事柄も多い作品だ。
本作は万人受けする映画では無いし、大仰な大作では無い。しかしながら、強烈で力強い怒りを秘めつつ、静かな中で観客に考えさせてくれるようなドラマに仕上がっている。
私も、本作の全てを手放しで賞賛することは無かったけども、テレビと社会の在り方を考える上で、見る価値のある映画だと思う。