劇場公開日 2006年11月4日

「ミステリアスなセンスが光る作品」エコール R41さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ミステリアスなセンスが光る作品

2024年12月18日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

タイトルはこの物語の学校名で、原題はイノセンス(無垢)
いくつかある似たような作品の中でも異例の難解さが漂う作品かもしれない。
特に冒頭から時折挿入される水泡のモチーフが何を象徴しているのか?
ここに大きな疑問が残ってしまった。
さて、
棺の中に入って登場した少女イリス
彼女は最も年下の女の子
最後に似たような女児が似たように登場することから、彼女らは誘拐されて来たのではないかと想像する。
誘拐という概念のない女児だけがこのエコールのターゲットなのだろう。
彼女たちの言葉がフランス語で、この作品がベルギーとフランスの合作であることから、エコールのある場所とは違ったフランス語圏の場所から誘拐されたのかもしれない。
彼女らの養育費用は「観客」からの観劇費用から賄われているというセリフがあるが、それはその一部でしかないと思われる。
年に1度の校長による視察によって、1名だけが外に出られる権利が与えられるというが、彼女らが結局どこへ行くのかは謎のままだ。
しかし、「服従こそが幸福への道」という徹底した教育とまるで品評会のような品定めから、女児がその手の趣味の男に売られるのは明白で、それこそがこの施設最大の資金源だと思われる。
つまりエコールでのその年のNo,1は、誰かの奴隷となることであり、同時に施設の最大の資金源でもある。
表面上の教育とその裏の設定こそ、ダブルスタンダードというこの世の中の仕組みであり、作者の言いたいことがもしかしたらここにあるのかもしれない。
そして教師は、蝶をモチーフに性教育をする。
性に目覚めた少女のシーンも登場する。
このことから、彼女らの基本的な将来が一般的な結婚だと想像するが、なぜ敢えて性教育のシーンがあるのだろうという疑問が残るのだ。
そしてこの物語には歴史上の裏の世界観があると思われるが、その実在を臭わしながらもそれを物語として表現していることで、彼らヨーロッパの裏歴史を物語に乗せて描いたのかもしれない。
さて、
クリスマスという設定はないが、大みそかの設定がある。
おそらく年1度の豪華な夕食会だが、バレエ教師のエヴァは涙を見せる。
彼女の涙の理由はいくつか考えられるが、謎のひとつだ。
クリスマスという日が、No,1が決められる日で、誰かが去る日なのかもしれない。
エヴァはつい先日選ばれた女児にもバレエを教えていた。
彼女にとって、女児が連れ去られていく日ほど悲しい日はないのだろう。
そのわずか数日後の豪華な夕食など、彼女にとって楽しめるはずはないのだ。
また最後のシーンでエヴァは、ビアンカの「これからどこへ行くの?」という質問に対し、「すぐに私たちのことを忘れるわ」と返事をする。
これは外の世界の素晴らしさに、少女時代の変な体験はすぐに忘れるという意味だろうと思われる。
夜中に汽車に乗って連れてこられた場所には温かい陽が差し、それは彼女らの将来を表現している。
彼女らは付き添いによって広場に出て噴水のある公園に着くが、ここですでに付き添いが姿を消している。
周りには男の子たちがいて、噴水の中ではしゃぐビアンカに近寄ってくる男の子がいる。
新しい出会い
男子との出会い
彼女らは完全にフリーになったのだろうか?
あの場所で置いていかれても、夜になればどうするのだろうか?
あの場所で誰かに拾われることが、彼女たちの運命を大きく左右するのだろうか?
もしかしたら、エヴァとエディットは誰にも声をかけてもらえず、結局あの公園から汽車に乗って再びエコールに戻ってきてしまったのかもしれない。
さて、、
描かれない謎が、クリスマスだ。
その前に、
描かれないという意味合いで、この物語の最大の謎は「キリスト教」の存在だ。
なぜ教師らは神やキリスト教を教育しないのだろうか?
この隠された場所を紐解くと、
これこそが完全なるタブーだが、
これをしているのが教会、またはバチカンなのではないだろうか?
この当たり前の習慣がまったく描かれない彼女らの生活こそ、この作品最大の謎であり、秘密だと解釈した。
タブーという実在を描かないことで表現したのだ。
また、
この作品の原題はイノセンス
無垢というのは同時に「無知」も表現していたのではないかと思った。
この無知は、物語の中の女児たちを表現すると同時に、何も知らないでいる視聴者にも向けられているように思う。
そして水は、純水という言葉と共に「循環」というニュアンスもあることから、この仕組みが循環していることを臭わせている。
つまり、無知なままではこの世界は変えられないということを作者は言いたかったのかもしれない。
いずれにせよ、ぜんぶ私の妄想に過ぎないが、想像させる手法ほど面白いものはない。

R41