ザ・ヤクザのレビュー・感想・評価
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義理と友情
監督のシドニー・ポラックと音楽のデイヴ・グルーシンは後にアカデミー賞を受賞。
脚本のポール・シュレーダーは本作がデビューで、後に『タクシー・ドライバー』『レイジング・ブル』など名作を手掛ける。
後にさらに飛躍するハリウッドの一流映画人が惚れ込んだのは、日本の任侠の世界。
ハリウッドが作った任侠映画。1974年の作品。
日本人が西部劇やガンマンに憧れのと同じ。
海外から見れば時代劇や任侠の世界は、日本独特の魅力。
だからちと、美化されてる点もある。
偏見になるかもしれないが、ヤクザは反社会的勢力。それをヒロイックに描く。
が、邦画だってヒーロー的主人公が活躍する任侠映画は人気。
本作の場合も義理や人情や仁義を通し、悪しきを挫きケジメを付ける。サムライの武士道と通じる真の任侠道。
ヤクザ組織に挑む。元ヤクザの日本男児とアメリカ人の男。
その訳ありの関係と、友情。
ハリウッドのアクション映画であり、任侠映画であり、二人の漢のドラマである。
表向きは海運会社を営み、裏では武器密輸もしているマフィアのタナー。日本のヤクザと揉め、娘が誘拐される。
旧友で私立探偵をしているハリーに救出を依頼。ハリーは日本と関わり深かった。
探偵役やダーティな役や渋い役を多く演じてきたロバート・ミッチャムがぴったり。
かくしてハリーは久々に日本へ。タナーから護衛役として若い男ダスティと共に。日本で教鞭を取る知人オリバーの元に厄介になる。
ハリーは早速、ある人物に会いに行く。バーを営む日本人女性、英子。
戦後に出会い、幼い娘を抱えていた英子を助けたハリー。互いに想いを寄せ合うも、結ばれる事なく…。
岸恵子の美しさ光る。ハリウッドスター相手に、堂々と大人の恋路を謳う。
かつての想い人に会いに行ったのは再会と、ある人物の所在を聞く為に。
恵子の兄、健。元ヤクザ。今は京都で剣道を教えている。
今回の仕事に、元ヤクザだった健の協力は必須。
また、かつて妹の事を救ってくれ、健はハリーに恩義がある。義理を返す為に協力する。
この日本での一件と再会は、ハリーと健にとって、宿命と言うべきものだった…。
話はB級的。が、日本ロケも行い、ハリウッドのクリエイターでよく日本任侠の世界を創り上げたと感心。本作があったから後の『ブラック・レイン』や『キル・ビル』にも繋がったんじゃないかな。
日本文化に造詣が深いというシュレーダー。邦画では当たり前のように描かれている任侠の世界やしきたりを、海外向けに作ったお陰で、この手のジャンルに疎い日本人にとっても見易く。
イロモノではなく真面目にハリウッドで任侠映画を作り、そしてそれを体現したのは言うまでもなく、
役名からもそう。健は、高倉健がずっと演じてきた役柄そのもの。
元ヤクザという漢の一本気。
滲ませる男の哀愁。
クライマックスの大立ち回りは、完全にロバート・ミッチャムから主役の座を奪った。
ハリウッドから見ても、高倉健は高倉健なのだ。男が惚れる漢なのだ。
英子を含めたハリーと健の訳ありの関係。終盤、驚きの真実が…。
ハリーに義理を返す健。尊いものでもあり、重荷でもある。でも、それでも義理。
秘密を知って、ハリーは自分が健を苦しめていた事を知る。
彼は義理を返した。今度は自分の方が。任侠の世界に乗っ取って。
漢と漢が分かち合って、これ以上の友情はない。
シュレイダー兄弟の親日映画
やくざに人質にとられた旧友の娘を救うため、ハリーは日本へ行き、かつて進駐軍時代に愛した英子の兄の田中健にやくざとの仲介を頼む。
田中は、英子を米兵の暴力から救ってくれたハリーに恩があり、義理のために協力する。
原作はレナード・シュレイダー、脚本はポール・シュレイダーのやくざ映画大好き兄弟。
少なくとも5年日本に滞在していたレナードのほうは、本作で描かれる仁侠道が既に失われつつある事を知った上で執筆していたでしょう。
外国人として、日本の美徳である義理と人情に憧れを持ってヤクザに投影させたと思います。
本作のテーマである[義理]を描いた象徴的なセリフが、主人公ハリーの護衛として日本についてきたダスティと、高倉健演じる田中健とのやりとり。
「健さん。義理とは借りなのか?」
『重荷です。耐え難いほどの重荷』
「じゃあ放り出せばどうなんだ!?文句は言われまい。天罰でもくだるのか?」
『いいえ』
「じゃあなぜ重荷を背負う?」
『義理です』
その瞬間のダスティのポカーンとした顔と、アメリカの観客は同じ顔をしていたに違いない(笑)
自分のせいで田中の過去と未来をぶち壊したハリーが、やくざでも無いのに指を詰めて詫びを入れるのも理解できないだろうなぁ。
実は田中は英子の夫なのだが、戦地に6年間抑留されてた時に英子とハリーが愛し合い、英子が救われていた恩もあり、その事を隠して兄として距離を置いてた。というディープな設定といい、健さんがひたすら格好良く、クライマックスのかちこみでも、主役であるはずのロバート・ミッチャムが完全に脇にまわってしまうという、アメリカでコケたのもある意味納得の、「ウルヴァリン:SAMURAI」とは大違いな親日映画です。
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