悪魔とダニエル・ジョンストン : 映画評論・批評
2006年9月26日更新
2006年9月30日よりライズXにてロードショー
この映画そのものがダニエル自身の作品ともいえる
ダニエル・ジョンストンの半生を追ったこの映画には、もちろん彼の演奏シーンや彼が描いたアートが収められている。キリスト教原理主義者の両親や彼を支えてきた人々の証言も盛り込まれている。躁鬱病のために繰り返される入退院に加えて、マネージャーに暴行したり、自由の女神に落書きしたり、他人の家に押し入ったり、父親の飛行機を墜落させるといった驚きのエピソードも取り上げられている。
しかし、それ以上にこの映画をユニークなものにしているのは、カセット・テープの日記やホーム・ムービー、ノートなど、ダニエルがため込んできた膨大な自己の記録だ。映画の素材が本人の手ですでにほとんど準備されていたということは、この映画そのものがダニエル自身の作品ともいえる。かつて彼が宅録したカセットには、演奏だけでなく、厳格な母親のわめき声や家族の口論などが挿入され、生活が作品の一部になっていたが、ここにはそれに通じる親密な空気がある。
この映画からは、狂気と天才、危険な悪魔と純粋な子供、喪失の痛みと破天荒なユーモアの狭間で、忘れがたいメロディと詞、アートを紡ぎ出してきたダニエルのありのままの生が浮かび上がってくるのだ。
(大場正明)