劇場公開日 1999年5月1日

「心神耗弱と少年法」39 刑法第三十九条 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0心神耗弱と少年法

2022年7月9日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

1999年。森田芳光監督作品。
最初から最後まで面白かったです。
22年前の作品ですので、最初の犯罪・・・
これは、刑法39条(心神喪失者と心神耗弱者を特例として裁く・・・無実もある)
39条より、少年法で裁かれたと思われます。
(加害者を成人にしておくと良かったと思います)

つまり、工藤啓輔の妹・温子(当時小学生)が、15歳の少年に惨殺されます。
(骸を発見した啓輔は、側に妹の切り落とされた手首を見てしまう)
これが第一の犯罪。20年位前です。

そして第二の犯罪(現在)
男とその妊娠中の妻が惨殺された。
現場に落ちていた芝居のチケットから、劇団員の柴田真樹(堤真一)が
犯人として逮捕される。
柴田は法廷で、シェークスピアの「ハムレット」を大声で暗唱したり意味不明の発言を繰り返す。
また、殺された妊娠中の妻の胎児を腹を割いて取り出した・・・と、
非常に常軌を逸した猟奇的犯行だった。

それを理由に「精神鑑定」が提案され採用される。
精神鑑定人・藤代(杉浦直樹)と、助手の小川香深(オガワ・カフカ=鈴木京香)が登場する。
藤代も小川も、一般常識で判断するなら、精神病質に分けられる二人です。
この二人の演技は舌を巻くほど上手い。
カフカは深い鬱屈を抱えた女性です。
(父の死に方・・・彼女が告白した事件の真偽?及び、過食症のどこからみても病的な母親を抱えている・・・)

その二人。
藤代は柴田を解離性同一症候群(二重人格)と診断する。
(柴田は突然、両手をブルブル震わせ、それを合図にして別人格を現す。
・・・獰猛な表情・・暴力性(カフカに飛びかかり首を絞める)・・など、

一方カフカは柴田を詐病と診断する。つまり二重人格のフリをしていると診断する。
詐病と判定したカフカは、正式な精神鑑定人として採用され、
柴田の長時間鑑定を行うこととなる。
そして別件で新事実が判明する。
《柴田が殺した男・夫の方は工藤の妹・温子を殺した仮名の男だったのだ》
いつのまにか仮名の男は、少年法でプライバシーを保護され、結婚して幸せに暮らしていた。
カフカと刑事の名越(岸部一徳)は、柴田の過去を掘り下げて行く。
柴田は黙秘を貫いてる訳ではなかったので、事件当初の捜査で、柴田の過去に空白の5年間・・・が、存在することはある程度分かっていた)
カフカと名越は、柴田の父親(國村隼・・・故人)の故郷を訪ねる。
そして判明したのは、柴田の息子・真樹(堤真一)が、5年ぶりに現れて、
父親が喜んだとの事実を掴むのだった。
同時にカフカと名越は、幼児誘拐殺人事件の被害者・工藤温子の兄・工藤啓輔の
アパートを訪ねて当時のことを聞く。

なんとなく工藤啓輔と柴田真樹の接点が浮かんで来ませんか?

私の柴田真樹への第一印象は、なんと聡明な雰囲気を持つ男性だろう!!でした。
「知的で聡明」
その男が別人格に豹変する。
カフカもまた柴田の聡明さをいち早く理解した一人です。

ラストに柴田のカフカによる「公開精神鑑定」が仕組まれています。
そこで明かされる《衝撃のドンデン返し》

柴田の告白を、事件の目的を、是非とも、ご確認ください!!

森田芳光監督の本作品は、『家族ゲーム』同様に実験的側面を持つ映画だと思います。
樹木希林の弁護士、江守徹の検察官・・・隠し玉ですね、効果的な・・・。
「銀残し」・・・急に画面が暗く遠くなり、配信が途絶えたかと思った・・・その手法。

原作(永井泰宇)脚本(大森寿美男)そして場面場面の切り返しや
差し込まれる風物に流れる実にマッチした音楽(佐藤俊彦)
そして何より鈴木京香と堤真一の演技力。

素晴らしいコラボレーションの秀作だと思います。

琥珀糖