「【黒人蔑視の思想を持つ刑務所看守が、自身の愚かしき思想故に起きた哀しき出来事をきっかけに、思想が変わって行く様と、差別されていた側の女性との仄かなる想いを抑制したトーンで描いた逸品。】」チョコレート NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【黒人蔑視の思想を持つ刑務所看守が、自身の愚かしき思想故に起きた哀しき出来事をきっかけに、思想が変わって行く様と、差別されていた側の女性との仄かなる想いを抑制したトーンで描いた逸品。】
ー 今作は、世間的にはハル・ベリーが有色人種の女優としてオスカーを獲得した作品として有名であるが、私は彼女の身体を張った演技と共に、黒人蔑視の思想を持つ刑務所看守ハンク・グロトウスキを演じたビリー・ボブ・ソーントンの演技を讃えたいと思った作品である。-
■ジョージア州の刑務所に勤めるハンク(ビリー・ボブ・ソーントン)と息子・ソニー(ヒース・レジャー:短い出演時間であるが、善性在る人間の生き様を強烈に演じている。)。
黒人差別意識の強いハンクに対し、心優しいソニーはレティシア・マスグローヴ(ハル・ベリー)の夫でもある黒人死刑囚・ローレンスの死刑執行中に嘔吐してしまう。
ハンクはそんな息子の態度を厳しく叱責するが、翌日ソニーはハンクの目の前で自ら拳銃で自らの胸を打ち抜き、命を絶つ。
一方、レティシアは現実に絶望し、息子で過食症で86キロにもなっている幼きタレイルに対し、自身の不満をぶつける。
だが、そのタイレルがある晩、交通事故に遭ってしまう。
◆感想
・世間的にはハル・ベリーの演技を見る作品なのだろうが、私は、黒人蔑視の思想を持つ刑務所看守ハンク・グロトウスキを演じたビリー・ボブ・ソーントンの演技に魅入られた作品である。
彼の黒人差別思想に反発する、息子ソニーがローレンスの死刑執行後に、父の前で自ら銃で胸を打ち抜き、自死するシーンから、ハンクは徐々に変わって行くのである。
ー ハンクが、ソニーが自身で撃った弾をソファーから取り出し、ガラス瓶に痛恨の表情で納めるシーン。-
・そして、ハンクは自ら刑務所看守を辞める。
その後、街の古ぼけたガソリンスタンドを購入する。
一方、遅刻が続き職を失ったレティシアは町のダイナーで働き始める。
仕事に慣れない彼女は客としてやってきたハンクの前で上手く珈琲を淹れられないが、ハンクは彼女を叱責せずに、チョコレート・アイスクリームを注文し、食べるのである。
ー レティシアの息子のタイレルも父が居ないせいか、過食症になってチョコレートを隠れて食べている事との連動性が見事である。哀しい時には、心を癒す、甘いモノが食べたくなる・・。-
・タイレルは、雨が激しく降る中、夜、レティシアと家に帰る途中、車に撥ねられる。
泣き叫ぶレティシアの横を車で通り過ぎたハンクは、それを見てわざわざ車をバックさせて二人を病院へ送る。だが、タイレルはそのまま亡くなる。
ー 且つてのハンクであれば見過ごす筈であるが、彼は血にまみれたタイレルを自らの車に乗せる。そして、車とレティシアのハンドバックについた、”忌み嫌っていた筈の黒人の血”を黙々と拭くのである。彼の黒人に対する偏見が薄らいでいる事が分かるシーンである。-
・その後も、ハンクは黒人蔑視の思想に反発し、自ら命を絶ったソニーのSUVをレティシアに”貰って欲しい”と言ってキーを渡すのである。
更に、且つて息子のソニーを慕っていた黒人の息子2人に優しき言葉を掛け、ソニーのSUVの修理を息子の父親に依頼するのである。
■ハンクの黒人蔑視の思想を形成した彼の父は、正に”プア・ホワイト”の象徴であろう。
だが、その父は家庭生活が出来なくなり、施設に収容されるのである。
ハンクは、一人になった家にレティシアを招き、愛を交わす。
そこには且つての黒人蔑視の思想を持つ姿は、微塵もないのである。
<今作は、人間の持つレイシズムの根本を描きつつも、その愚かしき思想の根拠の無さを喝破した作品であり、ヒューマニズムに溢れた社会派の作品の逸品なのである。>