「日常と無人島に流れる時間の表現が見事。」キャスト・アウェイ すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
日常と無人島に流れる時間の表現が見事。
○作品全体
時間の流れ方が独特な作品だった。
チャックが島に流れ着いてからは劇伴もなく、ただ海と風と雨の音があるだけ。ジャックの時間への固執がほだされていく感じが、環境音で表現されているような気がした。映像面では長回し、とまではいかないものの、1カットごとの時間が長い。ロシアでは目まぐるしく立ち回っていたチャック、そしてカメラワークがここでは鳴りを潜めて目の前に起こっていることだけを映していた。孤独の時間、という表現でもあったのかもしれない。
救出された後には、2つの時間が流れていたことがわかってくる。無人島に流れる「チャックだけがいる時間」とメンフィスに流れる「チャックだけがいない時間」。その2つはチャックとケリーの生活に決定的な隔たりを作ってしまう。それでも2人にある愛は変わらず…というストーリーはドラマティックだが、ファーストシーンとラストシーンにある交差点が、二人の交わりと別れを残酷に写し撮っているようにも見えた。
それでも天使の羽がついた荷物を届け、届け主と顔を合わせることができる喜びがあることを最後に表現していたことに、こちらも嬉しくなった。それぞれが別の時間を歩んでいても、僅かな時間ながら交わる時間はあって、そこに人のつながりの喜びを感じる。長い時間をかけたからこその喜びも含まれていて、時間に束縛されていたチャックがそれを感じ取っているのがまた面白い。
この人と人との交わり、出会いの喜びをチャックを通して、改めて感じさせてくれる作品だった。
○カメラワークとか
・無人島での明滅演出そのものを、チャックの無人島での灯火として映していた。アメリカへ戻ってきたがケリーと再会できず、ホテルで電気を明滅させながらケリーの写真を見つめるシーンがそれだ。あの写真と明滅こそが、チャックの生きる気力を沸き立たせるトリガーになってしまったのだろう。ろうそくの火のように明滅する弱い光だが、孤独という闇で生きるチャックにとっては物凄く大きなものだとわかる演出。
○その他
・終盤、チャックがケリーの家に行き、車で走り去ろうとするシーン。新海誠に染まっているので「絶対ケリーは間に合わなくて、車の影はもうない…みたいなカットくるだろうな…」って思ってしまった。『秒速5センチメートル』的な。車が引き返してきて二人が抱き合うところにあまり心に刺さらないのは、自分の中に新海誠を求めている心があるからかもしれない…。