カサノバ : 映画評論・批評
2006年6月13日更新
2006年6月17日よりテアトルタイムズスクエアほかにてロードショー
今までの「カサノバ」とは一線を画す恋と冒険の娯楽作
18世紀のヨーロッパで“恋愛の達人”と称された伝説のプレイボーイ、カサノバ。彼を描いた映画は数多く作られたが、ラッセ・ハルストレム監督による本作は、趣がかなり異なる。エロティックなシーンはなく、ため息が出るほど美しいベネチアを舞台に、先が読めない恋と冒険の娯楽作に仕上げている。
ヒース・レジャーが、恋に無邪気で、イタズラが好きな少年のようなカサノバを飄々と好演。自分を女性の敵と嫌う知的で剣の腕も立つフランチェスカに惹かれ、正体を偽ってあの手この手でアタックする様は、じつにおかしい。フランチャスカにも秘密があり、騒ぎが騒ぎを呼ぶ展開はシェイクスピア喜劇のような味わいだ。ジュード・ロウの元恋人、シエナ・ミラーが、「アルフィー」から一転、利発なフランチェスカを魅力的に演じているのも見逃せない。
しかし、風紀を乱すカサノバの逮捕に執念を燃やす狡猾な司教(ジェレミー・アイアンズ)が現れると、一気に活劇化してスリリリングなアクションと思わぬドンデン返しで魅せる。さらに、脇役たちが、騒ぎのなかでみな個性を発露し(俳優陣の好演が光る)、魅力的になって幸せをつかむ意外性も気持ちがいい。ただ、カサノバの夢や理想がほとんど語られず、ラストにロマンを感じられなかったのが惜しい。
(山口直樹)