キャラバン : 映画評論・批評
2000年11月15日更新
2000年11月15日よりシネマライズほかにてロードショー
過酷な大自然と共に生きる人々の成長と葛藤
生きていくために、麦と交換する塩を命がけで運ぶキャラバン。標高4000メートルを越える場所にクルーが長期滞在し、何度となく5000メートルの峠を越えて敢行された撮影。すべてが過酷であり、過酷であるがゆえのとぎすまされた美しさが、そこにはある。
しかしもっと素晴らしいと思うのは、この映画が、ただ世代の対立と和解を描いているのではなく、大きな視野から伝統を支える物語が生まれる、あるいは更新される現場を描いていることだ。伝統は守っているだけでは死んでいく。現実から物語が生まれ、やがて現実が風化して物語の効力が失われる。しかし、生存の危機に立たされたとき、現実が再び形骸化した物語に新たな生命を吹き込む。
生きた物語から見放されかけている長老と若者の頭は、どちらもエゴを剥きだしにする。長老は年端も行かぬ孫を強引に自分の後継者に据えようとし、若者の頭は物語や自然ではなく、自分だけを信じようとする。彼らはそれぞれのエゴに命をかけ、断崖絶壁に自力で活路を切り開くような最も困難な道を選ぶ。必死に戦う彼らの道はやがてひとつになり、彼らは自然に祝福され、物語に受け入れられていくことになるのである。
(大場正明)