ブロークバック・マウンテン : 映画評論・批評
2006年2月28日更新
2006年3月4日よりシネマライズほかにてロードショー
その寡黙さに原罪を背負った人間の悲しみがある
「女性が書いたとは思えないほどタフでワイルドですが、読み終わると涙を流していました」と監督アン・リーは、この映画の原作であるE・アニー・プルーの短編について述懐する。その後、大作「グリーン・デスティニー」と「ハルク」に取り組み、精も根も尽き果てた彼が結局、立ち戻ったのがこの物語。険しい山を越えた果てに新たな地平が開けたような、驚くべきマスターピースだ。
羊番の仕事でワイオミングの山にこもった2人の青年は、自分たちにも理解できないパッション(熱情)に突き動かされ、禁断の果実を味わってしまう。その味が忘れられず、2人は互いに結婚して子供をもうけても秘かに交流を続ける。だがその代償として、もうひとつのパッション(受難)が待ち受けていた……。
「ブローク(破損)バック(背)」という名の山での、つかのまの牧歌的生活。それが2人にとっての「楽園」だったことに、失って初めて気づく痛み。その意味で、これは男2人の「失楽園」といえるのかもしれない。神話や伝説とはおよそ縁のない、武骨な西部の男を通して語られる普遍的なラブストーリー。ヒース・レジャーの寡黙さに、原罪を「背負った」人間の悲しみがある。
(田畑裕美)