ブラッドシンプル ザ・スリラーのレビュー・感想・評価
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◇ ハードボイルド、喉に詰まる茹で卵
物語の舞台はテキサス州のとある街、ハードボイルドなドラマに最適の背景。空気は乾いて埃っぽく感じられます。
ハードボイルド・サスペンススリラーとは、アメリカで生まれた物語形式。暴力的・反道徳的な内容を、批判を加えず、客観的で簡潔な描写で記述する手法・文体、映画の世界ではフィルムノワールとも呼ばれます。あまりにも簡潔に描かれる暴力や殺人の描写のせいで、そこにやるせ無い不条理の余韻を残します。
この作品は、不条理な物語世界を描くコーエン兄弟のデビュー作。ハードボイルドの世界の「男の痩せ我慢」を批評的に嘲笑的に斜めから切り出すような構成です。画面から伝わる独特の緊張感と人間の存在のおかしさ、過剰な暴力表現など、その後の作風に通じるものを一通り感じ取ることが出来ます。
ハードボイルドの世界でありがちなのは、魅力的な女が登場して、女を守ろうとするあまりに失敗する男の姿です。男が失敗した時には、女は何かの目的を果たしています。
この作品は、フランシス・マクドーマンドのデビュー作でもあります。決して美貌とかセクシーさとか女らしさを前面に打ち出すタイプの女優ではないところ、そこにこのハードボイルドテイストな作品でありながら最大のひねりを感じます。今や彼女は、『#ファーゴ』『#スリービルボード』『#ノマドランド』と三度のアカデミー主演女優賞を獲得を始めとして、エミー賞、トニー賞を含めた「演技の三冠」を達成した大女優として君臨しています。最後には生き残る女性の強さ、それはハードボイルドの異なる醍醐味を象徴しているのかもしれません。
今は亡きシネマライズにて劇場公開時鑑賞
オリジナル版は未鑑賞。こちらの方が短くなっていると言うのがすごい。
『ファーゴ』に「!!!」と衝撃を受けたものの『ビッグ・リボウスキ』には「……?」と困惑していただけに、本作で「!」となり、やっぱりコーエン兄弟好きだなあ、と確認できた。
まだマクドーマンドが初々しくて、キャーキャー逃げ惑うだけのヒロインかと思えば、後年の貫禄溢れる立ち振る舞いの片鱗も見せたりして。
偶然と策略と思い込みから紡がれるストーリーは、次々とこちらの予想を超える方向へ転がっていく。とても良い出来過ぎ感。
コーエン兄弟にはハズレなし
面白い。探偵は犯行現場にZIPPOのライターを忘れる。レイはマーティを撃ったのはアビーだと信じてしまい、実はまだ息があった彼を生き埋めにしてしまう。といった展開。
コーエン兄弟共同でのデビュー作を自ら焼きなおした作品ということだが、間の取り方が独特なため、色々と想像してしまい膨らんでいくんです。もし正義感と良識ある探偵なら、金をそのまま二人に渡し、逃走させるとか。生き埋めに気付いた時に病院に運ぶ振りをするとか。そんなことを考えていると、血がかわかないことや細かな矛盾に気がつき、大げさに表現していることは理解していても、興ざめしてしまうかもしれない。
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