記憶の棘 : 映画評論・批評
2006年9月12日更新
2006年9月23日よりシャンテシネほかにてロードショー
オカルト性と扇情性がミステリアスに絡み合う
ニコール・キッドマンはハリウッドのトップ女優に違いないが、外国の鬼才や無名の新進と平然と組んだり、折々見せる「蛮勇」はどこか反ハリウッド的でもある。彼女自身オージーだが、この「記憶の棘」も監督はイギリスの新進グレイザー、脚本にはフランスの大御所カリエールが加わり、演奏会で流れる曲はワグナーと、マンハッタンの話ながら、何やら「異人」風味たっぷり。
10年前、夫を亡くした女性がようやく再婚を決めた矢先、10歳の少年が現れる。夫と同じ名を名乗り、夫婦しか知らない秘め事を口にするこの少年は、果たして夫の生まれ変わりなのか……。
輪廻をめぐるオカルト性と、10歳の少年に心を乱されるという扇情性。この2つがミステリアスに絡み合い、不穏なムードをかき立てる。実は一応、合理的な落ちがあるのだが、それでも謎めいた余韻が消えないのは、キャメロン・ブライト演じる少年の不可思議さ。一見、普通の子供に潜む成熟した男のような色気には、ヒロインならずとも引きつけられる。マンハッタンの上流家庭に場違いに紛れ込み、人間関係をかき乱す彼もまた、年齢やアイデンティティの境を超えた「異人」なのだ。
(田畑裕美)