ビッグ・フィッシュ : 映画評論・批評
2004年5月15日更新
2004年5月15日より日比谷スカラ座1ほか全国東宝洋画系にてロードショー
ティム・バートンが、万人向けの「感動作」をものにした
ティム・バートンはいつも、個人的な映画を撮ってきた。彼の作品は「変人」と呼ばれた孤独な子供のイマジネーションと、常に密接だったわけだ。そしてこの映画は、彼にとってはいままでとは違った意味で、個人的なものとなった。彼はここ数年の間に、大作(「猿の惑星」)に懲り、理知的な英国人女優を伴侶とし、理解し合えなかった父親を亡くした。こうした経験が、彼をこの作品に向かわせたのだ。
そう、「ビッグ・フィッシュ」はティム・バートンに撮られるべき映画なのだった。空想の羽根を伸ばして自由に生きてきた父親と、それを理解できない現実的な息子。父の死を前に、2人は理解しあいたいと願う。父が語る荒唐無稽な冒険ホラ話を通して。若かりし父の世界には異形の者たちやサーカスなど、バートン的なアイコンがうようよ。映像のパワー、ヘンなユーモア、役者の演技、ファンタジーと現実の混じり具合も申し分ない。もちろん父と息子は「理解しあえました」という安易なオチではなく、切なくて複雑な(フェリーニ的でもある)ラストを迎える。それでいて、きっと誰もが共感でき、涙を誘われずにはいられない!
こんなにわかりやすく万人向けの「感動作」をバートンがものにするとは。昔の彼にあった「理解されない」ことへの子供っぽい諦念、開き直りが姿を変えている。その成熟を祝いつつ、彼がオトナな息子に共感しているという事実が、ファンとしてはちょっと寂しかったりもする。
(若林ゆり)