美しき野獣 : 映画評論・批評
2006年2月14日更新
2006年2月11日よりシネマスクエアとうきゅうほかにてロードショー
「正義」は常に遂行されるとは限らない!
クォン“涙の王子様”サンウとユ・ジテ演じる熱血刑事チャンとクールな検事オが巨悪と戦うアクション・ノワール。冒頭の不吉な映像から最後までハイ・テンションで突っ走る監督の力業にまず敬意を表したい。司法や行政との癒着で成り上がるヤクザと正義のために命を賭ける若者という図式はやもすれば陳腐になりがち。しかし予想を裏切る結末を用意したキム・ソンウ監督の英断は、いつも「正義」は遂行されるとは限らないと知る庶民に喝采を持って迎えられるだろう。苦くはあるが、溜飲が下がる一瞬だ。
人気スターのサンウ&ジテは、本作ではがらりとイメチェン。特にすごいのが凶悪犯罪捜査科の問題児チャンを演じるサンウで、事あるごとに絶叫し、泣き、殴り、蹴る。喜怒哀楽をエネルギッシュに爆発させる彼の演技は境界線ギリギリだ。時にやりすぎの感もあるが、激しいアクションを自ら演じたパワーと気合いは買う。大晦日に東京ドームで「プライド」を観戦して喜んでいたのは伊達じゃなかったのだ。一方のジテも火のようなサンウに水のような柔軟な演技で対抗。静かなたたずまいのなかに苦悩をにじませる演技に役者としての成熟も感じられる。抑制した感情表現で雄弁に語るというのは熟練の業である。
34歳のソンウ監督と29歳の若手コンビが作りあげた本作はアクションの枠をはるかに超え、韓国映画界のさらなる成長を予感させてくれる。
(山縣みどり)