「青春の亡霊」青い春 桜場七生さんの映画レビュー(感想・評価)
青春の亡霊
もう何度も見ている。見過ぎてセリフを先回りして言えるほど。
この映画と初めて出会ったのは二十歳の時。それからもうまた20年ほど経とうとしている。
改めて見ると、本当に役者陣皆若く、まだ道行の決まっていない顔をしている。
青木の事をどう思うか。それが私にとって、年を重ねる度に踏み絵のようになっていく。
最初に観た時には、正直言うと友人を殺してしまった雪男、ヤクザになる木村、受験勉強を始め出す九條。それぞれが一応進路を決めていくことが私には緩やかな自殺に見えた。
その中で「今」の為だけに死んだ青木こそが一番生きていたのではないか、そう思った。
しかし、年を重ねると自分の将来に見切りをつけ、絶対に忘れられない形で九條の中で生き続けようとした青木はずるくも感じる。
青木は青春の亡霊になったのだ。青木の手によって屋上にまるで焼き付けるかのように書かれた影。九條に永遠につきまとう影。
…ずるくも感じる?本当にそうだろうか?
夕方から夜になりそして朝が来る。あの屋上にいた長い時間、そしてフェンスを握りしめた青木の手。
開き行くチューリップ。揺れる桜。群れる蛇口。かつてサッカーをした校庭。
自分の黒い手形をつけた顔を決意で引き締め行う独りぼっちの手叩きゲーム。
ああとしか生きられなかったし、ああとしか死ねなかった。彼はやっぱり、生きるために死んだのだ。
青木は囁く。今もなお。私は九條じゃないから、その声に耳を傾ける必要なんて無いことは分かってる。でも、囁きは続く。
「俺も連れて行ってくれよ、な」
私は青木を連れて行かなければならない。青木の落下を忘れられないなら、私は青木の落下に恥じないように生きなければならない。
ミッシェルガンエレファントの曲がたまらなく恰好いい。とりあえず、私に一番響いた青春映画である。