愛の世紀 : 映画評論・批評
2002年4月2日更新
2002年4月13日より日比谷シャンテ・シネほかにてロードショー
「映画愛」に迫る21世紀初のゴダール映画
黒く濡れたような舗道、ぼんやりと白く光る街灯、走り去るクルマ。ジャン・ピエール・メルビル映画かと見まがうばかりの“パリところどころ”を切り取った、前半の白黒映像が圧倒的に美しい! 若き芸術家エドガー(ブリュノ・ピュツリュ)の創造と挫折が描かれるのだが、年代の違う3組のカップルで愛における4つの瞬間──出会い、肉体的愛、別れ、再会を描く企画を構想するものの、映画、舞台、小説、オペラのどれになるか分かっていない。“レ・ミゼラブル”な結果に終わるのだが。
後半は一転して、ブルゴーニュへのエドガーの旅の回想がカラーで描かれる。金色の入り江に浮かぶ小舟、海辺の部屋までも青く染める小波など、鮮烈な色彩に目を奪われる。まるでデジタルカメラをもてあそぶゴダール監督の喜色満面の顔が思い浮かぶようだ。
ベルグソン、シモーヌ・ベイユ、「トリスタンとイゾルデ」、スピルバーグ、ロベール・ブレッソン、アウグスティヌスなど、本、絵画、音楽、映画からのおびただしい「引用」も挑発的だ(とくにハリウッドへの痛烈な皮肉が笑える)。断片的映像に豊穣なセリフや字幕、ミニマルな音楽をかぶせるゴダール話術はまさに老練のきわみだ。五感を刺激してやまないイメージが脳裏を駆け足で通り過ぎてゆく。21世紀最初のこのゴダール映画ほど、「映画愛」に迫った悲喜劇はない。
(サトウムツオ)