「人は何かを喪失して初めて大人になる」あの頃ペニー・レインと ブロディー署長さんの映画レビュー(感想・評価)
人は何かを喪失して初めて大人になる
1969年。サーファーショップが立ち並ぶ海沿いの街サンディエゴ。
離婚を原因として世間ズレするほど教育熱心な大学教授の母親。その中で素直に育っているウィリアムは秀才で飛び級をして上級生のクラスに入り弁護士を目指す。周りチビ扱いされるが喧嘩もせずおとなしい。
厳しく強い母親と反りの合わない姉のアニタは、母親から逃げるように彼と車でサンフランシスコへ旅立つ。ウィリアムは姉の残した「ベッドの下で自由を見つけて」の言葉通り、ベッドの下にザ・フーのトミーと「ロウソクをつけて聴くと未来が見えるわ」という姉の手紙を見つけ、その通りロウソクをつけてレコードをかける。少年の心に何かが始まる予感が生まれた。
1973年。ウィリアムは15歳になった。進学し周りより年下ながらもクラスで、それなりにうまくやっている。クリームマガジンの伝説のロック記者レスターに「利益に走ったロックは終わりだ、ロックは危機に瀕している」と教えられ、ブラックサバスのライブの取材の仕事を得る。
母親に車でコンサート会場に送ってもらう。会場裏口から取材だと言って入ろうとするが締め出され、あきらめかけたが、通りかかった前座バンド、スティルウォーターのメンバーに、彼らの新作の的確な解説をしてみせ、気に入られ、エネミーというニックネームで楽屋へのフリーパスをもらう。ウィリアムはロックショーの舞台裏に感激する。バンドのギタリストであるラッセルに「曲のセカンドバースの終わりにミスがある、でもそれが曲のツボになっていて、それがロックンロールなんだ」と教わる。夜の駐車場で母親の車に戻る、それを上空から映しだす。大人の世界を垣間見た夜だった。
数日後、ライオットハウスに出かけていく息子を見て母親は、成長とともにだんだん離れていくのを感じ、寂しく思う。
ローリングストーン誌から電話が入り、スティルウォーターのツアー同行記を3000字1000ドルで依頼される。記者のレスターも母親も反対するがウィリアムは決意してツアーバスに乗り込む。
アリゾナ州キングモーターロッジに着く。バンドメンバーはウィリアムがローリングストーン誌に記事を書くことに危機感を感じていた。プールサイドでラッセルに「昔は聞こえたサウンドが、今はもう聞こえない」と告白される。
バンドツアーに同行しているウィリアムにとって見るもの全てが刺激的で異世界に迷い込んだようだった。
ラッセルがライブ中に感電し、電気管理ができてないないとマネージャーのディックがプロモーターと喧嘩して会場を引き上げる。
レッドツェッペリンThat’s the wayがかかりバスの窓から朝日を見る。
トピーカの町でバンドのTシャツが完成したと喜んだが、ルックスのいいラッセルを中心に売ろうとしているデザインにヴォーカルは腹を立てラッセルにバンドを辞めろと言う。
ラッセルとウィリアムはトピーカ住民のハウスパーティに誘われる。LSDでラリったラッセルはバンドを辞めると言い「俺は輝く神だ」と叫んでプールに飛び込む。
次の日の朝、マネージャーのディックがラッセルを説得して連れ戻す。バスの中でエルトンジョンのタイニーダンサーをメンバーで歌い仲直りする。
グリーンヴィルでウィリアムは童貞を失う。その朝、ローリングストーン誌から追加の1000語を依頼される。
眩しく輝く音楽の世界だが、その裏側は酒と女とドラッグばかりの汚い世界だと知るウィリアムは、依頼されている記事がまとまらずホテルの廊下で1人泣く。ウィリアムはもう家に帰りたかったが、ラッセルは中西部のロックの街クリーブランドに強引に連れて行き、そこでデヴィッドボウイを見かける。ラッセルは電話で母親に「ウィリアムを堕落の道に落とさないで」と頼まれる。
業界通の大物マネージャが来て、言うことを聞けば君たちをビックなバンドにしてみせると言われる。いつまでもロックをやってられないぞと言う大物マネージャーに、バンドメンバーは彼が必要だと言う。ウィリアムは地元先輩記者レスターの「ロックは商業主義に負けた」という言葉を思い出す。
飛行機で移動しボストン、ニューヨークへ。ウィリアムはついにバントとともにアメリカを西から東へ横断した。ウィリアムはバンドにローリングストーン誌の表紙に決まったことを発表する。
母親はウィリアムの卒業式に1人で出席し悲しい思いをした。
移動のセスナ機で雷雨に見舞われ、緊急着陸となり、もう命が無いと感じたメンバーはみんな隠していたことを告白する。機体は無事雷雨を切り抜けたが、打ち明け話を聞いたメンバーは白け、ウィリアムは空港で嘔吐する。ラッセルに「自由に書け」と言われる。
ウィリアムはサンフランシスコのローリングストーン社に行く。バンドを褒めてばかりの記事ではダメだと言われ、一晩待ってくれと言う。
先輩記者レスターに電話で相談し「偉大な芸術は罪悪感と憧れから生まれる」と教えられる。
ウィリアムは正直に見たことを記事として書いたが、ローリングストーン社はバンドにその内容を否定され、裏が取れなかったとして記事はボツとなった。
ウィリアムはあらためてラッセルにインタヴューし、「音楽の何を愛してる?」と聞き、ラッセル「すべてだ」と答える。
ラッセルはローリングストーン誌にウィリアムの書いた記事はすべて本当だと言い、ウィリアムの記事が掲載されることになる。
スティルウォーターは、ローリングストーン誌の表紙を飾り、ロックの魂を捨て商業的に成功し、ツアーバスで走り去った。
ウィリアムは空港で呆然としていたところを姉のアニタと再会し、2人で家に帰る。
スチュワーデスになり大人として成長した姉のアニタは、いつも心配してくれていた母親の気持ちを理解し、抱きしめ、許し合う。
母は子供2人と久しぶりに食事をし、心から安堵し、幸せな時間を過ごす。
ウィリアムはタクシーで帰る姉を見送り、いつまでも手を振った。
この経験を通して、美しいものに憧れていた純粋な少年時代が終わりを告げたことを感じた。
そして、大人への一歩を踏み出した。
夕暮れの中、さわやかな風が吹いていた。