アバウト・シュミット : 映画評論・批評
2003年5月15日更新
2003年5月24日よりみゆき座ほか全国東宝洋画系にてロードショー
シュミット氏は暖かさに感動して泣くのではない
こりゃあまるで小津安二郎の映画だ。ただ、はるかに情け容赦のない。
妻に先立たれた老父、そして嫁ぎゆく娘への思い、というと後期小津映画で繰り返された物語。理想と現実の乖離がテーマであるところなど、まるで「東京物語」(53)だ。しかしこの映画に笠智衆を慰める原節子は存在しない! たとえばキャシー・ベイツのクジラじみた裸体なんてニコルソンには嫌悪の対象でしかないだろう。彼を苛む幻滅の数々は、晴れの結婚式に至っても解消されることは決してなく、行き場のない怒りが薄皮一枚下に煮えたぎるスピーチへと凝固していく。
いや、強いて原節子の役割を求めるならば、シュミット氏が(善意で)援助金を送るアフリカの孤児がいる。しかしカネと一緒にゲロのような鬱憤の言葉を投げられ続けた少年は、ラストに至って(悪意もなく)最大のしっぺ返しをくらわすのだ。シュミット氏は孤児から届いた“モノ”の素朴さ暖かさに感動して泣くのではない。それで66年間が報われたといって泣くのでは、断じてないっ! ……ま、アレクサンダー・ペインはそうも受け取れるように巧みに演出しているけれど、シュミット氏の旅を正面から見届けた観客なら、そのドス黒さに慄然とするはずだ!!
(ミルクマン斉藤)