8人の女たち : 映画評論・批評
2002年11月15日更新
2002年11月23日よりシネマライズほかにてロードショー
ダグラス・サークもジョン・フォードも知らなくっても大丈夫
例えば、この映画がそこかしこで参照しているダグラス・サーク(40年代、50年代のハリウッドのメロドラマ作家として知られる)の諸作品を知らなくても、「8人の女たち」というタイトルが引き継いでいるはずのジョン・フォードの遺作(「荒野の女たち」、原題「SEVEN WOMEN」)を知らなくても、全然問題なし。一家の主人の殺人事件をめぐり、雪に埋もれた大邸宅に集まった8人の女たちの、涙と笑いと怒りとやさしさと歌と踊りと愛と憎しみとを、つまり、ばかばかしくも愚かしい彼女たちの人生の大騒ぎを、たっぷり堪能できる。
しかし一体、この映画に詰め込まれたあれやこれやの断片の数々を称して、人はなんと呼ぶのだろうか? サスペンス・コメディ? 推理ミュージカル? ドタバタ・ラブストーリー?
いやこれこそ現代のメロドラマと呼ぶのだと、ダグラス・サークなら言うだろう。ありえないような非現実的な状況の中に生まれる何か、そこに映画の真実は宿ると語ったのは、この映画の監督フランソワ・オゾンの敬愛するもうひとりの映画監督R・W・ファスビンダーだが、もちろんその「何か」こそ「愛」に他ならない。若手から大御所まで、8人の個性溢れるフランス女優をのせまくった監督の、見事な力技に拍手。
(樋口泰人)