28日後... : 映画評論・批評
2003年8月15日更新
2003年8月23日よりシネクイントほかにてロードショー
ゾンビ映画へのオマージュにもメッセージあり
「トレインスポッティング」(96)以後、過激さを封印して低迷していたダニー・ボイル監督が見事に復活! 感染すると精神を破壊され、人を殺したくなるウィルスによって訪れる人類滅亡のビジョンを生々しく描いた。
物音ひとつしない無人のロンドンで、必死に生きのびようとするジムたちを、音もなく現れ、野獣のごとく襲う感染者の群れ。その姿は、突如キレた人間たちを思わせ、ゾッとさせられる。ゲリラ的撮影ゆえに使われたデジタルビデオの乾いた質感や、速い動きでの不鮮明さがどこか奇妙で、悪夢のごとく迫ってくる。死体の山もはっきり見えず、サブリミナルのごとく脳を刺激しつづけるのだ。
さらに監督は、絶望的な状況下で、人を愛する心の有無によって露になる人間の美しさと醜さを鮮烈に対比させる。かろうじて人でありつづけるジムは、繰り返し「ヘルプ」ではなく「ハロー」と呼びかける。それは、他人を気遣い、触れ合いを求める心の欠如こそが人間性を失うはじまりであることを訴えたい監督の思いに違いない。ちりばめられたジョージ・A・ロメロ監督の“ゾンビ”3部作へのオマージュも、“もはや殺戮を映画で楽しむ余裕などない”という皮肉に感じられる。
(山口直樹)