殺し屋ネルスン

解説

 刑務所に服役していたレスターは情婦スー・ネルスンの助けで脱獄し、彼を罠にはめたギャングのロカに復讐を果たす。その後、レスターはネルスンを名乗って、スーと内縁の夫婦になる。凶悪な犯罪者デリンジャーと知り合ったネルスンはその一味に加わることに。悪事を繰り返し、やがてベビー・フェイスのネルスンと呼ばれるお尋ね者となった彼にFBIが迫る……。実在した犯罪者を描くドン・シーゲル監督の傑作。

1957年製作/85分/アメリカ
原題または英題:Baby Face Nelson

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映画レビュー

4.5澱みなく流れるバイオレンス

2023年6月16日
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蓮實重彦や山田宏一といった映画批評界隈の重鎮が口を揃えて絶賛しているにもかかわらずどこへ行っても観られないことで有名だった本作を今日遂に拝むことができた。ありがとう渋谷シネマヴェーラ。ありがとう俺の代わりにチケット買っといてくれた友達。

50年代のノワール映画の慣例として、冒頭部に官憲へのバカみたいな献辞が挿入される。犯罪の撲滅を願い〜だのFBIの活躍を祈り〜だのあまりにも白々しすぎて笑ってしまう。『深夜の告白』や『暗黒街の顔役』のような暗澹たるピカレスク・ロマンを予想していたが、意外にもポップでノイジーな殺戮コメディだった。

まずもって言及したいのはネルソンの容姿。アメリカ人にしてはあまりにも小柄で可愛らしい(そういえば本作の原題は"baby face nelson"だ)。それでいて性格は残忍かつ凶暴。『ドラゴンボール』のレッド総帥を彷彿とさせる…と言えば伝わるだろうか?それゆえか彼が暴れるシーンはどこかコミカルな雰囲気がある。ここでヴェルナー・ヘルツォークの『小人の饗宴』を引き合いに出すのはあまりにも不謹慎そうなのでやめておこう。

ネルソンの凶暴性は自分より大柄な周囲の人間たちへの劣等感の裏返しである側面が強い。自分をチビと罵った男たちを階段の上から銃撃したり、妻を口説いたなどとイチャモンをつけて殴りかかったり。逆に自分より小柄な人質は生かしたまま逃がしたり。美人で背の高い妻のスーにあらぬ浮気の疑いをかけてしまうのも、自分に男性的魅力が不足しているのではないかという彼の恐怖心の表れに思われる。人間的、あまりにも人間的。同情はできないのについつい顛末が気になってしまう。

水が流れるようにあっさりと遂行されるネルソンの略奪行為は見ていて気持ちがいい。警官のふりをして裏口から回り込む→支配人に金庫の中まで案内させてから唐突に銃を突きつける→略奪を早々に切り上げ強盗仲間を金庫の中に閉じ込める→フロントで待ち伏せるFBI捜査官たちめがけて煙玉をお見舞いする→パニックの合間を縫って車で逃走する。そこには一瞬の澱みもない。階段での一斉射殺シーンや中盤の山小屋からの逃走劇もよかったな。

極めつきはラストのカーチェイス。『バニシング・ポイント』よろしく猛スピードで捜査網を突破し山道を駆け抜けるネルソンとスーだが、最後は乗っていた車が破損し、降りたところを追っ手の銃撃に襲われる。絶命寸前のネルソンは導かれるように墓地の前へと辿り着き、そこで倒れる。警察に捕まるくらいなら俺を殺せとスーに命じるが彼女は応じない。そこで彼は精一杯の悪漢を演じる。さっき子供を殺しかけたが、あれは本当に殺すつもりだったんだぜ!と喀血しながら叫ぶ。見かねたスーは衝動的にトリガーを引く。息を引き取る彼の後方には「悪は滅びる」と刻印された墓石と"the end"の文字。

息もつかせぬ運動の連続に唖然としっ放しだった。

蓮實先生、山田先生、若造がナマ言って申し訳ありませんでした…

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因果

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