タブロイド : 映画評論・批評
2006年1月17日更新
2006年1月21日よりVIRGIN TOHO CINEMAS六本木ヒルズほかにてロードショー
サスペンスは、キャラクターの心の中にある
怖い映画だ。目を背けたくなるような「真実」をあぶり出しながら、見る者をぐいぐいと引き込み、くぎ付けにしてしまう。そして、いつまでも後を引く衝撃。
マイアミを拠点とするドキュメンタリー番組の花形レポーター、マノロは、エクアドルの幼児連続殺人鬼を追うべく現地入り。そこで真相を追いながら、野心に足をすくわれ、思わぬ煉獄へと導かれるマノロ。あぶり出されるのは、真実をショーアップするのが当たり前になっているジャーナリズム、視聴者、ひいてはアメリカの、麻痺しきった倫理。そして善悪では決して割り切れない、人間という存在が内包する闇。
サスペンスは、キャラクターの心の中にある。恐ろしいのはマノロが、最初から真相のねつ造を意図していたわけではないということだ。野心家で矜持に満ちているが、理想を持ったロマンティストの一面もある彼が、悪魔の囁きと葛藤しながら突き進む道。一方で、鬼畜のような殺人犯にも人間的な一面があるという事実。埃っぽく荒んだエクアドルの風景が、キャラクターの心と重なり合う。マノロを演じたレグイザモの説得力。たった98分という時間の中でメディアへの警鐘を鳴らすのみならず、深い人間ドラマを構築した手腕には、舌を巻かされる。
(若林ゆり)