「B級映画としての“ターミネーター”に原点回帰した第3弾。」ターミネーター3 kobayandayoさんの映画レビュー(感想・評価)
B級映画としての“ターミネーター”に原点回帰した第3弾。
2003年7月中旬の公開初日に日劇1(現在の“TOHOシネマズ 日劇 スクリーン1”)にて初回を鑑賞。
機械を題材としたSFアクション映画の金字塔と言われている『ターミネーター』シリーズは1991年の『ターミネーター2』によって作品の未来が変わり、綺麗に完結した筈でしたが、2003年にシリーズ第3弾となった本作『ターミネーター3』が製作・公開され、シュワルツェネッガーが続投し、主なスタッフも製作総指揮のゲイル・アン・ハード、製作のマリオ・F・カサール、特殊効果スーパーバイザーのスタン・ウィンストン以外は参加せず、生みの親のジェームズ・キャメロンが関わらないというハンデを背負いながらも、その後任として抜擢されたジョナサン・モストウ監督の手腕によって、力作として仕上がりました。
命の尊さを理解した殺人マシーンのターミネーター(アーノルド・シュワルツェネッガー)が溶鉱炉へ沈み、サイバーダイン社が産み出す筈だったスカイネットの息の根を止めてから、10年が経過した時代において、成人したジョン(ニック・スタール)は生きる目的を模索しながら、日雇い労働で稼ぐ日々を送っていた。そんな中、西暦2032年の未来から、まだ存在し続けていたスカイネットによって開発された女性の姿をした新型ターミネーター“T-X(クリスタナ・ローケン)が送り込まれ、ジョン、それに彼と共に未来で重要人物となる女性ケイト(クレア・デーンズ)の抹殺の為に動き出し、そこに二人を守る任務を帯びた、あのターミネーターも現れる(ここまでが粗筋)。
第3弾の製作の噂はユニヴァーサル・スタジオのアトラクションとして『T2 3D』が登場した頃からありましたが、当時は多くの人と同様に「話は“ターミネーター2”で終わっているんだ」と思い、本格的に製作が始まった頃は期待してなかったのですが、公開が近づくにつれて、期待が深まり、その期待を遥かに上回る面白さで楽しめ、キャメロンやリンダ・ハミルトンが不在の上にサラ・コナーが死んでいるという設定など、無茶がありすぎる状況で、見事に話を描いていて、描くネタが残っていた事や、SFというジャンルの冷酷さに気づき、そこに驚きました。
幼い頃に『ターミネーター2』を観て、映画好きとなったので、小学校を卒業するまでは「“ターミネーター”シリーズは“2”が一番」と思っていたのですが、それは変わっていき、ある時期に『ターミネーター』の本当の面白さが分かるようになり、それが原因か、スケールとしては『2』と同様に超大作ですが、内容は『1』路線に回帰し、『2』でキャメロン監督が徹底した洗練された演出は無く、ジョナサン・モストウ監督(この人のスゴさは『ブレーキ・ダウン』や『サロゲート』を観ても、分かります)独自の荒っぽい演出と余計な要素の無い編集で、必要な事だけを描いて見せて、シュワルツェネッガーのターミネーターは再びジョンを守りながらも、『2』のような完全なる味方ではなく、マシーンとしてプログラムされた事を淡々とこなすという『1』に近い設定で、英語の発音も辿々しさを取り戻し、『2』の感動的な終わり方が嘘のようですが、こういう所が楽しく、「“ターミネーター”は元々、B級映画である」というのを再認識させてくれる作りに興奮しました。
敵のT-Xが『2』のT-1000よりも進化しているのに、弱く見えるという設定も気に入っています。T-1000が無敵で、不気味さ、俊敏さ共にシュワ型を上回っていたのは間違いありませんが、そのT-1000は本来、ターミネーターの持ち味であった「効率的で無駄が無く、二つの地点を最短距離で移動して目標に襲い掛かる」という点が活かされていないという欠点があり、このT-Xはそれを行っている(シュワ型よりも先に2004年に現れて行動し、ターミネーターやジョンよりも早くCRSのある空軍基地に現れる等)という部分で、ターミネーターらしさのある敵であり、シュワ型と同様に堂々とした形(T-1000は人目を気にしたり、音を立てずに近づいたりする事が多く、堂々とはしていなかったところがありました)で無関係の人間を手に掛けているのがカッコ良く見えます。沢山の役立つ武器を内蔵しながらも、それが役立たなかったり、拳銃を使ったりとツッコミどころも用意されていて、そのツッコミどころによって、シュワ型ターミネーターがより一層、存在感を増していて、見せ場を奪わないというところにも好感が持てます。
ジョン役のニック・スタールの起用は間違ってないと思います。もし、エドワード・ファーロングが私生活を乱さずに俳優活動を続けて、続投していた場合には、もっと違う感じのジョンになっていたのでしょうが、結局、降板してしまったので、製作陣が目指したジョンの姿は父親のカイル・リース(マイケル・ビーン)を思い出させる顔立ちをした俳優の起用なのが見受けられ、それだけでなく、行動にも『ターミネーター』のカイルを思い出させる(キャンピング・カーのなかでプラスティック爆弾を用意したり、粒子加速器の電源を入れる等)ものもあったり、将来、人類を救う存在になるのに、どこか脆い部分を持っているところも通じていて、『2』で一時的に未来を変え、『ターミネーター』を否定した終わり方になったのを本作で元に戻した事により、ジョンの父親に関することも思い出させる形になったのが嬉しいところです(もし、同じ設定でファーロングが私生活が乱れた状態で続投していたとするならば、動物病院に忍び込んで、鎮痛剤をがぶ飲みする件は笑えない自虐ネタになっていたことでしょう)。
興行的には今一つ、評判も前二作に比べると悪かった本作ですが、批判を恐れずに挑戦し、本来、起こるべき事を描ききり、ド迫力のカーチェイスや初期型マシーンの“T-1”を通じて、シリーズの未来が垣間見れ、撮影時に54歳となっていたシュワルツェネッガーの熱演など、魅力が多く、観る人を選ぶ作品ではあるけれど、単なるファン向けな作品にならず、話が進むにつれて緊迫感が増していくのに、時折、クスッと来る笑いを盛り込んだりと親切な要素も多く、後半部分がアレンジされ過ぎですが、エンドロールでお馴染みのメインテーマを使ったりと、その魅力は尽きず、本作もシリーズとして普通に成立しているので、期待して鑑賞したのは、大正解な作品で、製作から13年が経過した現在でも、愛してやまない作品の一つとなっています。
『2』よりも『ターミネーター』が好きな人、SFのジャンルが好きな人にお薦めしたい一作です。