シリアナのレビュー・感想・評価
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幾重にも重なるそれぞれ目論み、それが衝突したときのドラマが面白い。
○作品全体
物語の主軸にいるCIAのボブ・バーンズ、スバーイ王子に近づくアナリストのブライアン・ウッドマン、石油会社の合併調査を行う弁護士のベネット・ホリデイ、中東の青年・ワシーム。いずれもそれぞれの立場から中東の世界と関わり合うことになるが、根幹では繋がりがあった。
全体像を把握することがなかなか難しい作品だったが、その難解さの理由でもあり、かつこの作品の面白い部分が「同じ組織内ですら対立や独立がある」と言うことだろうか。CIA内部でいえば、本部長は副長官とは独立した指揮系統でスバーイ王子暗殺を目論むが、ボブが暗殺に失敗したことを副長官へ報告する本部長は素知らぬ様子でそのことを報告し、指示を仰ぐ。ボブの視点で物語を辿っているとボブ同様、誰の指示で動いているのか霧がかかったような状況になる。作品を見ている私たちにも誰かの思惑という霧に包まれる。この感覚が面白い。
ベネットとその上司であるホワイティングの関係は石油会社の合併調査のポジションだけかと思いきや、ホワイティングはその合併を推し進めること、そのために親米派の王子を立てることを目的とする黒幕だったというのも面白かった。ベネットの視点から見ているだけでは気づけない策略だ。
この複雑で、多層化された思惑は突きつめてしまうと「アメリカのために」だろう。CIA、石油会社、ホワイティング、そしてその全ての後ろにあるアメリカという国が、自己の利益を獲得するためにそれぞれを駒として使っている。
しかしその目論みはラストでワシームによる自爆テロで大損害を被ることになる。ワシームが石油会社の合併のせいで首になり、過激派とつるむことで引き起こされる大損害だ。それもアメリカ製の武器によって、というのが「ドラマ」でもあり、実際同じようにアメリカ自身が根源となって生み出すテロリズムの「ノンフィクション」なのだろうと思った。
一方でブライアンとワシームは被害者でもあり、加害者という役割なのかもしれない。両者に共通するのは「生活」という要素だろう。
ブライアンはプールの感電事故で息子を失った。それによる家族との不和も含め、中東の世界に踏み込んだことで(偶然であれ)自身の「生活」に被害を被っている。ただ、アメリカを間に通さないパイプラインをスバーイ王子へ提言したことはスバーイ王子殺害を決定づける提言だったのではないだろうか(スバーイ王子が親中思想が元からあったというのも大きいが)。
ワシームはわかりやすい。職を失う、つまり生活に危機という被害を被り、持て余す時間のなかで過激派組織の人間と関わりを持つ。最終的には石油会社を攻撃する加害者へと生まれ変わってしまった。
アメリカと関わりが薄い人物でさえもアメリカが引き起こす中東の勢力争いに巻き込まれてしまう。その象徴たる人物がこの2人なのだと感じた。
本作の監督であるスティーヴン・ギャガンはワシントンポストで『シリアナ』という言葉を「自らの欲求に合うようあらゆる地域を作り変えたいという、人の永遠の希望を表す偉大な言葉」と話したのだとか。
誰かが欲求通りの世界を追い求めた結果、その代償を負わされる誰かも必ずどこかに存在する…群像劇として登場人物の繋がりが特徴的な本作を題するに相応しい言葉だ。
彼らの言葉を素直に受け止めてはならない
「ストーリーわからん」「意味がわからん」「とにかくわからん!」と、言われてるのが目につくが、わからなくて低評価をつけるしかないその気持ち、よーくわかります!
なぜなら、自分もそうだったからね!
初めて観たのはもう10年くらい前か。わかんなかったねー、サッパリだったね!
ジョージ・クルーニーが好き!みたいな理由で観ると痛い目に遭います。ええ、間違いなく。
今回観直してみたら驚きの面白さ。ほとんど内容覚えてなくて、ほぼ初見に近かったけど、何がわかんなかったのかがわからんほど面白かった~。
「中東情勢を把握してれば〜」みたいな事を書いてるレビューもあるけど、本当に必要なのは人物把握。これに尽きる。
顔だけじゃなく、「誰に」「何を」「どう」話しているか、を手懸りに人物を把握していくプロセスが重要になってくる。自分なりに、誰と誰が仲間で、どういう立場なのか推察する。で、それが裏切られた時に衝撃が来る。
例えばクリストファー・プラマー演じるホワイティング氏。序盤、ワシントンDCで、ホワイティング氏がジェフリー・ライト演じるベネットと話すシーン。細かい内容はさておき、会話の流れで上司と部下だとわかる。この後のシーンでベネットが弁護士だと紹介されるから、ホワイティング氏も弁護士で、事務所の偉い人なんだなと思って観ていくことになる。
すると、仕事仲間の弁護士と食事中、部下のはずのベネットが、何故かホワイティング氏を紹介されるから「あれ?」と思う。
さらに話が進み、CIA工作員のボブ(ジョージ・クルーニー)と密会するホワイティング氏。ベイルートの思い出話から、「パスポートを返せ」というボブのセリフが飛び出した時、衝撃が来るよね。
ホワイティング氏弁護士じゃなかった!CIAだ!
何度もCIAの会話には出て来てた副長官って、お前かよ!…ってことはベネットもCIAかよ!
ホワイティング氏の話は1つの例で、表面に見えてたものの裏側が垣間見えた瞬間、「そういう事だったのか!」と思うことばかり。
ほとんどの人物が真意を腹に隠して、無関係な人間にはわからないよう、含みを持たせて話す(スパイだから当たり前なんだが)もんだから、素直に受け止めちゃうと混乱するのは当然。
複雑だからこそ面白い「シリアナ」だけど、理解するためにシンプルにすると、映画の中で行われていたCIAの作戦は、大きく分けて3つ。
1、シリアナでの石油採掘権を失ったコネックスとカザフスタンで天然ガスの採掘権を獲得したキリーンの合併を成功させ、中東地域の資源支配を継続すること。合併前調査による司法省の横槍をかわす策が必要。
2、採掘権を中国に売却し、アメリカの資源支配から脱却をはかる第一王子ナシールを王国から排除すること。王位は親米の第二王子に継承させ、ナシールの出方によっては実力排除も辞さない。
3、ナシールが中国に売却した洋上プラントに打撃を与え、原油価格の競争相手を弱体化させること。ただし、軍事作戦は不可能なので代替案が必要。
目的は、産油地域でのアメリカの優位性と、世界のエネルギー市場におけるパワーバランスをアメリカ有利に保つこと。
1を達成するためにベネットは暗躍し、2を達成するためにナシールは爆撃される。3はラストシーンでのテロ攻撃で、テロを教唆した男こそボブから高性能爆弾を奪った「青い眼の男」だ。アイツも多分CIA。むしろボブだけ知らなかったんだろうな。
もう一つ、映画に出て来る様々な「父と息子」について。エネルギーアナリストのブライアンは商談先で息子・マックスを失った。国王も息子ナシールを失った。出稼ぎに来ていたサリームは息子ワシームがテロを企てているなんて思いもよらなかった。ボブは息子が死んだわけではないけど、秘密だらけの父に失望した息子は彼の元を離れた。
父親たちは、みんな「良かれ」と思って行動していたのに。
仕事で誕生日を祝えない、だから商談先に家族を連れて行った。強国と対立して暗殺されるくらいなら生きていて欲しい、だから弟王子を後継者に選んだ。産油で潤う国に来て、家族を呼んで暮らしを建て直そうとした。仕事に関する事は話せず、息子に嘘をつくしかなかった。
父たちは思ったはずだ。「俺はただ、家族を想っただけだ。どうしてこんなことに?」
さらにもう一つ、「利益の確保が幸せにつながる」という思想を、静かに否定する人物たちがいる。
それはCIA工作員であるボブを否定する息子・ボビーであり、ベネットに反発する父であり、今現在の贅沢や強権より国家の行く先を考えたナシール王子である。
利権を描いたサスペンスでありながら、「本当の幸せって何だろう?」という疑問を投げかけ、未来への想いを伴走させながら、九死に一生を得たブライアンが家族の元へ戻る、というエンディングにまとめ上げた緻密な脚本。
メッセージ性も高く、テロや内戦や中東情勢が自分の生活と何の関わりもない、なんて事はないのだと強く訴えてくる骨太の社会派でもある。
身近な人の幸せも大事だし、見知らぬ人の幸せも大事。要は、そういう世界を夢見ることを止めてはならない、という映画でもあるのだ。
なんでわかんなかったんだろうなぁ。多分観る前の覚悟が足りなかったんだろうな。あと、単純にアホだったよね。10年前の自分。
観直しだけど、社会派映画ベストに選ぶくらい面白い、至高の一本です。
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