シン・シティ : インタビュー
ハリウッドを遠く離れ、テキサス州オースティンに自分の映画専用スタジオ「トラブルメイカー・スタジオ」を構えるロドリゲス監督に「シン・シティ」のすべてを聞くべく、佐藤睦雄氏がそのアジトへ潜入した。
ロバート・ロドリゲス監督インタビュー
「これは、めちゃくちゃクールなグラフィックノベルがそのまんま動く“新しい映画”なのさ」
聞き手:佐藤睦雄
──フランク・ミラーのコミックスの大ファンなわけですね。
「もちろんだ! フランクの原作はめちゃくちゃハードボイルドでクールな、彼の最高傑作だよ。もうひと目見たときから、とにかくフランクの原作の画は1枚1枚が、すでに(映画用の)素晴らしいストーリーボードだったからね。台詞もカット割りもほぼ同じなのは、そのためだ。映画用に何も手を加える必要がなかったんだ」
──刑事と殺し屋とストリッパーと娼婦だけが登場する犯罪だらけの街。あなたの大好きなフィルムノワールにうってつけの題材です。
「本当は大好きだった『キッスで殺せ!』(55)をリメイクしたかったんだけど、6年前からマイケル・マン(『コラテラル』)が着手していると聞いてね。それに、今ではオールドファッションすぎやしないか? とも疑問をいだいた。『シン・シティ』なら、ぼくが愛するフィルムノワー ル的な感覚というかな、誰も見たことがないような新感覚のビジュアルであるブラック&ホワイトに挑戦できると思ったんだ」
──モノクロ画面が血の陰惨さを薄め、暴力をスタイリッシュに描いていますね。
「たしかにブラック&ホワイトのおかげで、過激には見えない利点あるね。だが、すべてはフランクの原画通りだよ。ブルーの瞳とか、深紅の口紅とか、インパクトのあるビジュアルを部分部分でパートカラーで染めたけれどね」
──フランク・ミラーが共同監督に名を連ねています。どうやって説得したのですか?
「オープニングシーン、そう、ジョシュ・ハートネット登場の雨シーンをこのスタジオで撮って、デジタルで雨を降らせて彼に見せたんだ。それを見たフランクは『オー・マイ・ゴッド!』と大はしゃぎだった。われわれも大喜びしたがね」
──フランク・ミラーを監督としてクレジットするため、あなたも米監督組合DGAを脱退されたのですね。そのため、SF大作「火星のプリンセス」の監督を降板されましたね。代償は大きくなかったですか?
「おかしな話で、DGAの規定では監督名としてクレジットされるのはたったひとり。当然、カット割りまで原作と同じなんだから、フランクの名前が載るべきだよね(笑)。でも、彼はためらったんだ。それでぼくは所属していたDGAを脱退した。ルーカスも、クエンティンも所属していない団体を、ね。それに、ここ(テキサス州オースティン)で映画を作っているから影響はない。俳優たちは少しの間やってきて帰っていく。デジタルだから一堂に集める必要もない。お金と時間の節約になって逆に好都合だ。第一、ルーカスのスタジオも、ピクサーも、ハリウッドとは別の場所にある。資金さえ集まればどこにいようが問題はないよ。もっとも重要なのは、ハリウッド映画にありがちな、似たり寄ったりのアメコミの映画化をすることじゃない。“新しいこと”をすることだった。これは、めちゃくちゃクールなグラフィックノベルがそのまんま動く“新しい映画”なのさ。こっちのほうが興味深くないかい?」
──今回、タランティーノが1シーン(ジャッキー・ボーイとドワイトが車中でお喋りするシーン)だけ、ゲスト監督していますね。
「『キル・ビルVol.2』でぼくが音楽を作ったお返しに、たった1ドルで監督してくれた(笑)。そのシーンでベニチオが吸うタバコは『キル・ビル』で使ったもの(『レッド・アップル』の模様がある)だよ。『フロム・ダスク・ティル・ドーン』以来、彼は一緒に映画にクレージーになって楽しんで、すげぇ映画を作ろうとしている同志だからね。彼とドライブイン・シアター用の2本立ての映画を作ろうと画策しているところだ」
──すでに「シン・シティ2」の準備中だとか? ドライブイン用にはぴったりですね。
「来年1月から、いや、このペースで準備が進めばもっと早くなるかもな。今ではすっかりフランクも乗り気で、次も監督してくれるはずだ。原作の『A Dame to Kill For』が続編のベースになるだろうから、マーブ(ミッキー・ローク)やドワイト(クライブ・オーウェン)やゲイル(ロザリオ・ドーソン)、ミホ(デボン青木)は出るだろうね」
──もう、出演のオファーはお済みで?
「いいや。でも、俳優たちは彼らの人生の中のたった2日間だけ、ここにやってきて撮影を楽しんでくればいいんだ(笑)」