海を飛ぶ夢 : 映画評論・批評
2005年4月1日更新
2007年4月16日よりシャンテシネほかにてロードショー
尊厳死を正面から捉えた感動作
過去3作で新たなサスペンスのジャンルを開拓してきたスペインの新鋭アメナバール監督の新作は、自国で起きた事件をベースに尊厳死を正面から捉えた意欲作。
事故によって自由を失った男ラモンが、自死の権利を勝ち取るために闘うストーリーは、これまでの監督の作風とは大きく異なるように思える。自身が「死の中に生を見る、という点ではこれまでと変わらない」と語るが、トリッキーなオチがないだけに、4年をかけてこの実話を映像化しようとした真摯な想いが伝わってくる。
彼を取り巻く人々の生き生きとした描写、彼を愛する女たちが持つ物語、空想のうちに空を飛ぶシーン。すべてが素晴らしく、また、最後に彼を送り出す家族たちの表情には、胸をうたれずにはいられない。
特筆すべきは主演ハビエル・バルデムの存在だ。特殊メイクで病床の中年男に扮しながらも、強い意志と深い洞察力を持ち、毒舌とユーモアを忘れないラモンを首から上だけで演じきり、同時に何人もの女性から求愛された事実を無理なく感じさせるだけの魅力に溢れている。
彼を救うことは彼を死なせること、という究極の矛盾をはらみながらも、悲しむべき結末に救いを感じるのは、このラモンというキャラクターがあってこそなのだ。
(編集部)