「◇浮世離れしたい気持ちを癒す色彩世界」ザ・ロイヤル・テネンバウムズ 私の右手は左利きさんの映画レビュー(感想・評価)
◇浮世離れしたい気持ちを癒す色彩世界
16世紀フランドルの画家ブリューゲルの絵画が好きです。均整の取れた遠近法の風景を背景にして細密画のように丹念に描き込まれた子供たちや農夫たちの群像、一人一人が生き生きと動きを持って感じられます。そこにはミニアチュールの小宇宙があります。
"天才"ウェス・アンダーソン監督の比較的初期のこの作品にも、ブリューゲルの絵画を観る時に一つ一つの細部を辿りながら、その世界の中に没入していくような、不思議な高揚感がありました。
大きな物語のテーマは家族の再集合。放蕩者で気まぐれで子供じみたところのある父親、幼少期はそれぞれ天才児と呼ばれた子供たち、物静かだけれども芯のある母親、そして、家族の周囲のトボケタ関係者たち、ビーグル犬、鷹。それぞれバラバラに生活していたのに、同じタイミングでそれぞれの事情で家に戻ってきます。
人と人との繋がりは不可思議な化学反応を引き起こして、それぞれの関係の化学反応が連鎖して人間喜劇を多声化して発生させます。「そんなん、ありえへん」って最初は思っていても、細部に渡って描き込まれた設定、こだわり抜いて作り込まれた舞台装置、計算された美しい色彩の構図によって、鑑賞者の感覚の方が解体されていく感覚に浸るようになります。
細かく繋ぎ合わされたカラフルなパッチワークが、自覚的現実逃避の喜びを満足させてくれるのです。あまりにも多彩で楽天的なカオスの世界へようこそ。
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