ポワゾン : インタビュー
アントニオ・バンデラス インタビュー
男女の関係はヘロイン中毒と同じ。危険な悦びを与えてくれる
森山京子
6年振りにアントニオ・バンデラスにインタビューした。前に会ったのは「デスペラード」と「暗殺者」を取り終わってハリウッドでの仕事が軌道に乗り始めた頃。セクシーだ野性的だと盛んに騒がれていたが、実物はほっそりしていて物腰がソフト、優しくてスウィートな人だと思ったのを覚えている。そのスウィートな優しさは、今も変わっていないが、英語が格段に上手になっている。
「この前、スピード違反で掴まってね。白バイの警官が、『おおゾロじゃないか』って言うんだ。『イエス、サー、行ってもいいかな』と聞いたら、『サインしてくれなくちゃダメ』って言われて。しめたッと思ったら、違反チケットにサインさせられちゃったよ」
なんて冗談で笑わせてくれる。さて、新作「ポワゾン」はアンジェリーナ・ジョリーとのセクシュアル共演が話題。彼が演じるルイスは、アンジェリーナに翻弄され傷つけられる男だ。女性より傷つきやすい役なんてイヤだと、時代錯誤のことを言うスターがハリウッドにはまだいるらしいが、バンデラスは、そんなことを気にもかけていない。
「アルモドバルの初期の作品をやったからだと思うけど、そういう恐れは全然持っていない。道徳的に正しいとか正しくないとか、いろいろな問題をすべて話し合って、とっくの昔に乗り越えたから、ゲイの役でもセクシュアルな役でも問題ないよ」
それよりも、この役をオファーされた時は、ついに来たかと、感慨深かったと言う。
「僕はね、15の時にフランソワ・トリュフォー版(『暗くなるまでこの恋を』69年)を見て、打ちのめされたんだよ。カトリーヌ・ドヌーブが、『あなたを殺そうとして毎朝コーヒーに毒を入れてるのよ』と言うと、ジャン・ポール・ベルモンドが、『知っているよ、でも君なしでは生きられないんだ』と言うんだ。凄い、ここまでこの男を駆り立てるのは何なんだって興味が湧いてね。あっちこっちで喋っているうちに、べルモンドが雪の中で死んで行くラスト・シーンが勝手に頭の中で出来ちゃったんだよね。20年ぐらい経って偶然ビデオを見つけてみたら、そんなシーンはないんだよ(笑)」
男女の関係はヘロイン中毒と同じ。あまりに凄い悦びを与えてくれるから、殺されても止められないと、バンデラスは言う。
「愛する人を失うというのは、その愛で満たされていた自分を失うことなんだ。魂の中が空洞になったと感じるのが耐えられない。だから愛をつなぎ止めるためにどんなことでもしてしまうんだと思うよ」
とルイスの心理を分析してみせる。こんなことを聞くと、メラニー・グリフィスとはどうなんです?と聞きたくなるのだが、
「僕とルイスは違うよ。幸運にもね(笑)。人生のある時期で一度だけ彼のようになる機会はあるだろうけど、僕はとっくの昔にそのラインは越したと思うよ」なんだって。
バンデラスは今、自分が監督する企画のデベロップに夢中。スペインに住んだアメリカ人女性の話で、メラニーが主演とか。ということは、仲がいいってことですね。