「「才能」「嫉妬」「挫折」を織り交ぜたスポーツ青春映画の名作。」ピンポン ソビエト蓮舫さんの映画レビュー(感想・評価)
「才能」「嫉妬」「挫折」を織り交ぜたスポーツ青春映画の名作。
私の幼少期〜少年期は、「週刊少年ジャンプ」が600万部売れてた全盛期。
クラスメイトの半分近くが毎週購読するか、友達の家や床屋さんの待ち時間で読んでいた。
そして中学に上がる辺りから、ヤンチャ心に目覚めた者は、
「週刊少年マガジン」で不良モノ漫画に手を出したり、小遣いが増えた影響で月刊誌にも手を出し始める。
そして、思春期全盛の高校生になると、それらは全て「ビッグコミックスピリッツ」にとって変わられていた。
高3の多感な時期に、そのスピリッツでみんな読んでた一番人気漫画だったのが、
松本大洋原作の卓球漫画「ピンポン」なのだ。
まずこの漫画、とにもかくにも名言揃いである。
あつがなついぜ!
ι(´Д`υ)アツィー
愛してるぜ、ペコ。
(ノ´∀`*)ε`*)チュ
俺が教えてやんよ。
(`・ω・´)キリッ
僕の血は鉄の味がする。
(*´༥` *)
どこで間違えた?何に躓いた?
(๑º口º๑; ; )
アイ、キャン、フラ〜イ!
-=≡Σ(((⊃゚∀゚)つ
それはアクマに卓球の才能がないからだよ。
( -`ω-)✧ドヤッ
この星の一等賞になりたいの!俺は!
\\\٩( 'ω' )و ///
お帰り、ヒーロー。
(〃・ω・)ノ オカエリー
特に、「○○してやんよ」は、「みくみくにしてやんよ」とか「ボコボコにしてやんよ」とか、
ネットスラング発祥かと思っていたが、
調べてみるとその元ネタは「太陽にほえろ!」の松田優作らしい。
でも実際に使い始める流行のきっかけ、元祖は、
私はやっぱりピンポンのペコ、もっと厳密に言えば、ペコ役の窪塚洋介ではないかと思うのだ。
この俳優は、演技達者なだけでなく、言葉を流行らせる言語感覚の優れた俳優でもあり、
その才能だけなら、松本人志や志村けんなど、お笑い界の重鎮にも匹敵するものがあったと思われ、
「アイキャンフライ」なんかは、ふざけて使う事も多々あった。
漫画以上に、役者がそのセリフを流行らせたのは間違いない。
さて、少し話を逸らすが、
( ´ー`)y-~~
中学生の頃、私は部活動で柔道をしていた。
最も小さい括りの地区大会は、5校いて、私の中学は万年3位。
ただし上位2校は、なぜか尋常じゃない程の強豪であり、
地区大会の上の郡市大会よりも、
さらに上の県大会の優勝候補のような両校だった。
高校野球でたとえれば、たった5校しかいない地区大会に、
横浜高校と東海大相模の両校がいるような、最悪の地区だったのだ。
(-_-;)
だから、週刊少年ジャンプで教わった「努力と友情で勝利を掴む」という方程式は通用せず、
それは嘘っぱちのインチキであると、中学生の時には悟っていた。
そして、立ちはだかる強豪中学の中には県大会の個人戦チャンピオンまでいた。
彼の名は「サイトウ君」。
いくら努力を積み重ねても、友情を育み切磋琢磨しても、
絶対勝てないと思い知らされたし、トンデモなく強く、
サイトウ君みたいな人が、オリンピックの代表まで辿り着くのだろうと予見してた。
実は、この柔道チャンピオンのサイトウ君。
今は浅井企画で「オテンキのり」という名前で活動している芸人なのだ。
エッ(゚Д゚≡゚Д゚)マジ?
昔は爆笑レッドカーペットの主要芸人としても活躍したり、
テレビの柔道企画では、同じ事務所の「ずんのやす」さんと一緒に必ず呼ばれていたし、
ラジオ文化放送では「レコメン」という番組の帯番組MCを、長らく務めていた。
サイトウ君は、柔道の世界ではなく、芸人の世界で活躍した。
という事は、柔道の世界では、あれだけ尋常じゃなく強かったのに、
挫折してしまったという事。
怪我のせいもあるらしいが、上には上がいる、という話なのだろう。
まさか柔道以外にも、芸人としての才能があり、それを開花させたのは、
ガチで凄いし驚きでもあったが。
話を映画の本筋に戻すと、この映画は、卓球というスポーツが題材だが、
週刊少年ジャンプのような友情を育み、努力をすれば必ず勝利する、という質の映画ではない。
むしろ、私が中学生の時に感じた、自分よりも「才能」溢れる人物の存在を知り、
その才能に「嫉妬」して歯痒い思いをし、
諦めて「挫折」する、
という類いのストーリーなのだ。
この「才能」に「嫉妬」し「挫折」する事のリアリティが、高校時代に読んだピンポンにはあり、
グサグサと刺さりまくって、のちに映画化される。
そしてその実写化が、役者の演技やら世界観の構築やら、
ピタっとハマる快作だったのだ。
井浦新演じるスマイルには「才能」があり、
同じく「才能」があったはずの窪塚洋介演じるペコは、
過信と怠慢により「才能」を開花させられず「挫折」する。
大倉孝二演じるアクマは、ペコには勝ったがスマイルに道場破りで敗北し、
自分にはない「才能」に「嫉妬」し「挫折」した結果、卓球を辞めてしまう。
強豪校の中村獅童演じる「ドラゴン」は、スマイルの「才能」にいち早く気づき、
「嫉妬」しながらも、血の滲む努力を重ねるが、
ようやく「才能」を開花させたペコに敗れる。
子供の頃からイジメにあって人間関係に「挫折」していたスマイルは、
ペコに助けられ卓球を始めて以来、ペコの「才能」やヒロイズムを信じつつ憧れており、
二人はようやく、同じ決勝の舞台で相まみえるのだ。
( ゚∀゚)o彡°
主要人物全てに「才能」「嫉妬」「挫折」という、リアリティのある感情移入ポイントがある。
特に私のような凡人は「才能」という面は持ち合わせていないので、
主要人物の中で最も才能がない、アクマの立ち位置から感情移入し、
物語の没入感を味わうだろうと思われる。
メインじゃない所からの感情移入。
これは、最近だとアニメ映画の「BLUE GIANT」でいう、
主人公宮本大の才能の一番近くにいる「玉田」の立ち位置に、
アクマの立ち位置は近い。
あの映画も、脇役の玉田が結構重要な役どころだ。
こうした学生達の人間模様も好きだが、オジサンになった今、この映画を見直すと、
オババ役の夏木マリも、バタフライジョーの先生役の竹中直人にも、
思い入れポイントがある。
そして、SUPERCARによる映画の主題歌「YUMEGIWA LAST BOY」や劇中歌「STROBOLIGHTS」などの曲が、
20年以上前の作品とは思えないほど、出来が素晴らしく、
映画の世界観構築を担っている事にビックリする。
この映画は、音楽の比率もかなり大きな映画だ。
とにかく、今見ても充分面白かったし、古臭さを感じないし、未だに好きなキャラクターだらけで、
ジワっとくる鑑賞後の余韻や、ギュッと胸を締め付けるノスタルジックさを、
今もなお内包する、平成の青春映画であり、スポーツ青春群像劇だった。
最後おまけ。
痩せてる時代の佐藤二朗と、子役時代の染谷将太を見つける楽しみもあった。
なんだ、アタマからケツまで最高な映画やんか。
良かった演者
窪塚洋介
井浦新(ARATA)
大倉孝二
中村獅童
夏木マリ
竹中直人
荒川良々
松尾スズキ
松本大洋のマンガ、名ゼリフ多すぎてあげられません!
『ピンポン』はなかでも、一番完成度の高い作品だと思ってます。
あと自分も柔道やってました。
万年白帯でしたけど。