「父と子」ロード・トゥ・パーディション sankouさんの映画レビュー(感想・評価)
父と子
子供の目線から描かれたマフィア映画であり、父と子の絆を描いた物語でもある。
妻アニーと二人の息子マイケルとピーターと共に暮らすマイケル・サリヴァンは、良き夫・良き父でありながらマフィアの殺し屋という裏の顔も持っていた。
マイケルとピーターは父親の仕事を知らされていない。
時折家を訪ねるマフィアのボスのジョンも、二人にとっては優しい祖父のような存在だ。
ただ、マイケルは父親が何か秘密を隠していることに気づいており、自分があまり愛されていないとも感じ取っていた。
ある夜、マイケルは自動車に忍び込み、父親の本当の仕事を知ろうとする。
そして彼は眼の前で人が射殺される瞬間を目撃してしまう。
ジョンの一人息子であるコナーが癇癪を起こして、予定外の殺しをしてしまったのだ。
父親の本当の姿を知りショックを受けるマイケル。
マイクは「今見たことを誰にも言うな」とマイケルに口止めする。
さらにジョンからも「秘密を漏らすなよ」と念押しされてしまう。
失態をジョンに責められたコナーは、父から寵愛されているマイクへの嫉妬と口封じのためにアニーとピーターを殺し、マイクにも差し金を向ける。
妻子の死を知ったマイクは、生き残ったマイケルと共に復讐を決意する。
実の息子と息子同然のマイクとの間で板挟みになったジョンは、最終的にコナーを守ることを選ぶ。
こうして狙われの身になったマイクとマイケルは、逃亡と復讐の旅に出る。
とても静謐な作品だが、画面から伝わってくる緊迫感に圧倒される。
また計算されたカメラアングルも美しく、作品としての完成度はかなり高いと感じた。
何より父と子のドラマがとても深い。
マイケルは自分のせいで母親と弟が殺されてしまったと自責続けることになるのだが、マイクはマイケルの行動を一切咎めず、彼を全力で守り抜こうとする。
マイクがマイケルに対してうまく愛情を示せなかったのは、彼が自分と似た者同士であることを感じ取っていたからだった。
二人の関係性が父と子としてだけではなく、仕事の相棒としても変化していく過程が印象的だった。
映画の構成力も素晴らしいが、演じる俳優の技巧も際立っていた。
なるべく感情を殺す演技に徹したマイク役のトム・ハンクス。
コナーとマイクの間で揺れ動くジョン役のポール・ニューマンもまた良き父親としての顔と非道なマフィアの顔を見事に表現している。
サイコパスな殺し屋マグワイヤを演じたジュード・ロウも印象的だった。
豪雨が降りしきる中、銃声が一切消された中でマイクがジョンのファミリーを襲撃するシーンは圧巻。
ジョンが殺される直前にマイクに向けて言った「お前で良かった」という言葉がとても切なく心に響いた。
ジョンはマイクに「自分たちは天国には行けない」と告げる。
マイクは「しかしマイケルにはその道が残されている」と返す。
マイクは確かに悪党だったかもしれないが、最後まで息子を悪の道から救おうとし続けた。
マイケルにとっては最後までマイクはたった一人の父親だった。
切ない物語ではあるが、父と子の絆に心を打たれる名作だ。