現金に体を張れのレビュー・感想・評価
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シンプルな物語、ベストなラストカット。
◯作品全体
「シンプルイズベスト」な作品だ。
強盗を企てる主人公たちの「事件前」を描いてキャラクターを見せる。完璧だった計画に穴を開けて綻びを作る。ラブロマンスや女の別の目的なんかも盛り込んではいるが、物語のアクセントに終始しているのも巧い。
ナレーションによって時間を提示することでシーンごとに区切りができるものの、計画実行時には群像劇のように同じ時間を別の角度から映す演出もまた巧い。
全ては強盗計画と、それに注力する共犯者たちの緊張感を強調する役割を担っている。映像が何を訴えたいのかが明瞭でいて野暮ったくない。絶妙な「シンプル」だ。
そしてなによりも幕引きの潔さが素晴らしい。主人公・ジョニーの恋人とのラブロマンスや過去や未来への語りが入ってもおかしくない終盤だが、あえてそういったものに時間をかけていない。強盗計画や計画実行シーンと比べて、札束がばらけていってからジョニーが捕まるまでの時間の短さが、計画に失敗したジョニーの空虚さを饒舌に語っていた。
静かに近づく警察官の姿と共に画面に映し出される「END」の文字が、セリフを用いずとも何もかも終わりであることを端的に示す。物語の構成からラストカットまで、「シンプル」だからこそ輝く作品もあることに改めて気付かされた。
◯カメラワークとか
・後期のキューブリック作品と随分撮り方に印象の差があった。本作はカメラがよく動いていた気がする。
・凝った撮り方をしているカットもいくつかあった。ジョニーがチェスクラブに初めて行くシーン、最初のクラブに入ってくるカットは廊下にある鏡を使ってジョニーを映し、その前を通り過ぎるタイミングで本物のジョニーを映す演出があった。
・強盗後に集合場所で銃撃戦になった後の主観カットも良かった。登場人物をフルショットで横位置から撮るカットが多くて、客観的なカットが多かったから主観カットはインパクトあった。
◯その他
・群像劇でたまにある、同じ時間を複数のシーンで映す演出が好きだな。シーンごとにカメラの主役が違くて、別のシーンでは断片的にしか何をやってるかわからない人物が、次のシーンで何をやっていたか全体像がわかる、みたいな演出。それぞれの意図を答え合わせしているようなワクワク感がある。
なかなかの作品であり、短くて観やすくテンポがいい
キューブリックの監督作品を調べていてどんなものだろうか?
と思い観てみたが途中から前にNHKで観た事のある作品だった
競馬場の現金強奪を企てる男達
その中の一人が計画を漏らした事で予測できない方向に転がり出す運命
短くテンポのいい作品でサクッと観れる感じ
無駄なシーンがなく心地よく観られる
この終わり方には監督の倫理観もあるのかな?
悪いことやるといずれ自分の身に不幸として報いが帰ってくる
そんな感覚を感じたな
完璧じゃない計画
5人の共犯者、ジョニー(ヘイドン)は計画の首謀者であり、資金提供者のマーヴィン、借金まみれの警官ランディ、競馬場のバーテン・マイク、競馬場の窓口係のジョージ。それにライフル狙撃者ニッキー、混乱役のプロレスラー・モーリスの二人が計画を知らされずに高額で雇われた。ストーリーは最初から不安な部分が露呈。気が弱いジョージが妻シェリー(ウィンザー)に現金強奪のことを喋ってしまい、それを彼女の愛人ヴァル(ヴィンス・エドワーズ)に伝えると、強奪した金を奪っちまおうということになってしまったのだ。
かなり穴のありそうな計画だったが、狙撃者ニッキーが警官に撃たれ死亡しただけで無事強奪に成功。しかし、ヴァルが仲間と現れ、銃撃戦となり、ほぼ全員死亡。渋滞していたためジョニーだけが助かった。トランクを買い、金を詰め込んで、恋人とともに高飛び・・・しかし、カバンは一匹の犬のせいで、空港内ですべての金がばらまかれてしまい、ジョニーも御用。虚しい終わり方だった。
役割分担のため、それぞれの仕事を違った角度から何度も見せるという手法。多分、この作品が初めてのチャレンジなのでしょう。今じゃ日本映画でもこの手法が使われてる。
彼の映画
主演は、スターリング・ヘイドン。当時、ノワール系の作品に多く出ている。
ストーリーは、ヘイドンが本作の前に主演した『アスファルト・ジャングル』と結構似ている。っていうか、ノワールにありがちな話だと思う。
ダイアログ(脚本)担当は、ノワールの雄ジム・トンプスン。当時、今ほど評価が高くなかった筈だが、結果的に当世随一の人を見つけてくるなんて、やはりキューブリックさすがである。トンプスンの下衆な感じがいい味になっている。
俳優も、ストーリーも、ダイアログも、当時のノワールの王道だ。ある意味ものすごくベタである。ジャンル映画の枠に収まっている。
それにもかかわらず、印象は何故かノワールではない。
似たような話の『アスファルト・ジャングル』が、ノワールとしてしみじみイイ、古臭い郷愁が何とも言えずイイのに対し、
本作は、製作から50年以上経っているにもかかわらず、新鮮だ。キリっと屹立して澄んでいる。ノワールのそれとはまた違う、空虚さが漂う。
その新鮮さは、本作の異常なテンポの良さから来てるのか、舞台となる競馬場のレースシーンのスピード感から来ているのか、クールなラストシーンから来ているのか、酷薄な女優メアリー・ウインザーからきているのか、キューブリック独特の構図から来ているのか…。
ノワールというジャンル映画として撮られているのに、ジャンルの枠をはみ出た魅力がある。キューブリックの映画としか言いようがない。
『2001年〜』『シャイニング』や『フルメタル〜』などが、これ以上なくSF・ホラー・戦争映画だったにもかかわらず、それらのジャンルには収まりきれない、キューブリックの映画としか言いようがないのと同様である。
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