「純愛か妄執か」オペラ座の怪人 komasaさんの映画レビュー(感想・評価)
純愛か妄執か
何と言ってもオープニング、よく知られたあの曲とともに、朽ちかけたモノクロのオペラ座が往年の姿に蘇る。これほど高揚し、期待を高めるオープニングはなかなか無い。
その後も印象的な曲達がファントム、クリスティーヌ、ラウルの安定した歌唱力で歌い上げられる。そのどれも心地よい。
物語の印象は、ファントムによる狂おしいほど純粋な愛というより、若い女性をつけまわす中年男の物語とみえてしまうのが昨今の感性だと思う。それでも、理不尽な理由で人々から虐げられ地下で隠れ住まなかった男のが、恐らく初めての恋に上手く振る舞えなかったと思うと、我が身の恥を突き付けられたような辛さがある。しかも最後、クリスティーヌは戻ってくると期待させておいて指輪をわざわざ手渡しで返して去っていく。死人に鞭打つようなこの仕打ちに血の涙を流しそうになった。(寺尾聰のルビーの指輪の一節が脳裏によぎった)
それにしても、年老いたラウルは何故猿の玩具を亡き妻クリスティーヌの墓前に捧げたのだろうか。ラウルからしたら、彼女の口からファントムの話なんて聞きたくもないはず。そんな彼にクリスティーヌは何と言って この玩具のことを話していたのだろうか。貴族の妻となり母となった彼女には歌を続けることなど出来なかったと思う。彼女が、あまりに短かったプリマドンナとしての時間を思い返しながら、またファントムとの時間を懐かしみながら死んでいったとしたら、あまりに悲しい。
それでも私としては、恐らくファントムの音楽に対する最も純粋な部分を象徴するこの玩具は、マダムの手元に渡って欲しかった。
そしてメグは、あの後ファントムを見つけたのだろうか。しかしクリスティーヌの墓前にあった薔薇からして、こちらも幸せになったとは思えないのが辛い。