オペラ座の怪人 : インタビュー
全世界で8000万人が観劇したと言われ、内容はともかくタイトルくらいは誰もが一度は耳にしたことがあるであろうミュージカル「オペラ座の怪人」が完全映画化。映画は舞台版に忠実で、俳優たちも全て吹替えなしで歌い、世紀のラブストーリーを盛り立てている。映画化にあたり監督がこだわったポイントは? また、それに挑んだ主演俳優の心境はいかに?(聞き手:若林ゆり)
ジョエル・シュマッカー監督インタビュー
「素晴らしい俳優を素晴らしく、美しく見せたいんだ」
──完成度の高い、有名なミュージカル作品を映画化したいと思ったのは?
「もともとは15年前、アンドリューが私に頼んできたんだ。それからショーを観に行って、これは素晴らしい映画になるって思ったよ。ビジュアル面でとても官能的になり得る。それに、これが悲劇的なラブ・ストーリーだということも気に入った。それから紆余曲折があって、今回、再開の話が持ち上がったとき、私は『やるよ。だけど、主役は若くなくちゃダメだ。彼女はティーンエイジャーだ。私にやれというのなら、みんな美しくて、すごくセクシーでなくちゃ』って言った。そして、クリスティーヌ、怪人、ラウルは自分で歌えることという条件をつけたんだ」
──「ムーラン・ルージュ」や「シカゴ」といったミュージカル映画の成功で、この映画へのアプローチが変わりましたか?
「いや。こういうミュージカルとはタイプが違うからね。私が参考にしたのは時代ドラマなんだ。ビスコンティの『山猫』やグレタ・ガルボの『椿姫』、ジェニファー・ジョーンズの『ボヴァリー夫人』だ。もちろん、ロン・チェイニーが主演した無声映画版も観た。あのセットにはパリのオペラ座の建設に関わった人物を呼んでいるからね。それから絵画も参考にした。オペラ座を描いた絵はたくさんあって、特に(エドガー・)ドガの絵は素晴らしい。そういうものを参考にしつつ、独自のものを見つけだしたかった。そして私たちは、劇場自体を女性に見立てたんだ。パリのオペラ座はもっと冷たくてエレガントだけれど、私たちのはとてもなまめかしいよ(笑)」
──この作品における官能性を表現する上で、こだわったのは?
「セクシーな映画を作ろうと思ったら、セクシーな人間を使うことさ。映画を官能的にしているのは俳優たちなんだ。ジェリー(ジェラルド・バトラー)の素晴らしいところは、俳優としてだけでなくルックスも素晴らしくセクシーな点だね(笑)。彼は拒絶されて傷つき、愛に焦がれる人物の内面を見事に演じた。誰もが共感する理由はここにあるんだよ。エミー(・ロッサム)も最高さ。演技を見れば、クリスティーヌが少女から女性に変わって行くのがわかる。それはセクシーだ。実は映画の編集中に、ハリウッドのメジャーな撮影所のボスが私に会いに来てね。ちょうど、ジェリーが手袋をはめた大きな手でエミーの腰を抱き寄せ、腿に手を這わせる場面が出てきた。それが彼には色っぽすぎたんだね。彼が『(とがめるような口調で)ジョエル!』って言うから、『これはジョエル・シュマッカーの映画だからね』って答えたよ(笑)」
──「ジョエル・シュマッカーの映画」を具体的に言うと?
「私が男であれ女であれ性的興味の対象とすることに対して、時には賞賛を受け、時には批判を受けている。でも、私は映画館で育ってきたんだよ。そこには、マーロン・ブランドやマリリン・モンロー、ポール・ニューマン、グレース・ケリー、オードリー・ヘプバーン、キム・ノバク、ジェームズ・ディーン、エリザベス・テイラーがいた。私は映画の神々や女神たちの中で育ってきた。だから、私も監督として、素晴らしい俳優を素晴らしく、美しく見せたいんだ」