オー・ブラザー! : 映画評論・批評
2001年10月15日更新
2001年10月20日よりシネセゾン渋谷ほかにてロードショー
アメリカよ、歌を忘れたカナリアになるのもどうかな?
北部生まれのユダヤ系インテリであるコーエン兄弟が、大不況にあえぐ1930年代アメリカ南部を舞台にした物語にチャレンジ。しかも、古代ギリシャの詩人ホメロス作「オデ ュッセイア」が原作であるという。いったい、どんな映画になるのやら?
で、僕たちのもとに届けられた「オー・ブラザー!」はといえば、意外なほど楽天的で、これまでのコーエン作品のどれにも増してオプティミスティックなパワーに満ちている。一応、3人の脱獄囚の逃走劇という設定なんだけど、いくら彼らに危機が訪れようとも、僕たちが真剣に心配する局面なんて多分ない。3人のデコボコ・コンビの前に待ちうけるのは、山あり谷ありの波乱に富んだ大冒険ではなくて、むしろ遠く地平線まで続く平坦な一本道なのだ。
この映画のオプティミズムを支えるのは、髪型の維持を異様に気にするジョージ・クルーニーのキャラクターと、全編を彩るいかにもアメリカ南部的でアーシィーな音楽群。3人組はヤバくなれば人気ポップ・グループ“ズブ濡れボーイズ”に大変身、窮地を乗り越えてしまう。やっぱり音楽はすばらしい。アメリカよ、血気にはやるのもけっこうだけど、歌を忘れたカナリアになるのもどうかな?
(北小路隆志)