「愛の力で無謀にも巨大組織に挑んでいく」ナイロビの蜂 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
愛の力で無謀にも巨大組織に挑んでいく
総合:70点
ストーリー: 70
キャスト: 75
演出: 70
ビジュアル: 75
音楽: 70
薬の開発には巨額の資金と年月がかかる。だからそれに関する利権も相当に大きなものになる。アフリカで医療援助をしているように見せて、実はしっかりと新薬の実験をしているという裏にある陰謀というのも、比較的わかりやすくて良い設定だと思った。こういう問題もあるのだという社会に対する提起という意味で、良い作品の主題である。そしてそのようにして開発された薬を知らず知らずに使っているのは我々であろうことも、出来れば物語に含めて欲しかった。
そして企業や組織は利益のためにはとても怖い存在になりうるというのが面白い。個人の力では通常は勝てないという意味で、この映画は現実的である。たった一人で巨大組織に立ち向かって勝てるのは、ハリウッドの娯楽アクション映画だけであるし、これは娯楽アクション映画ではない。普通の外交官には、仕事だけでなく命すら失いかねないわけであって、国家権力と結びついた巨大企業はとてつもなく恐ろしい存在である。
しかしただ勝てないだけでは空しさが残るのだが、本来ならば不必要であろう壮大な大自然を二人の死に場所としてわざわざ背景にして、二人の愛の姿を持ち込んで結末にする。そして陰謀を明らかにして二人の死が無駄ではなかったとすることで、物語に救いをもたらしている。彼は途中で全てに目を閉じて調査を止めることも出来たのだが、結局亡き妻の姿に後ろを押されて敢えて危険に挑んだ。脅されても襲われても死ぬかもしれないと思っても止めなかった。陰謀と不正の暴露と社会への提起と愛の姿、そんなものがうまく詰め込まれてまとめられた映画でした。
一つ疑問が残る。薬の副作用で死者が出れば、いかにデータを誤魔化して薬の承認と発売に持ち込んだとしても、その後もやはり副作用で死者が出るだろう。そうなれば薬の発売中止や損害賠償などで、結局後々に莫大な損害が出ることになるだろうことは容易に想定できる。それならば何故そんなことをするのだろうか。とりあえず引くに引けなくて、エイズの薬害事件のときみたいに後のことは後で考えるということなんだろうか。