蟲師 : 映画評論・批評
2007年3月20日更新
2007年3月24日より渋谷東急ほか全国松竹・東急系にてロードショー
派手なVFXを排し、樹木に囲まれた温泉湯治の世界に浸る
ドラマが山谷がないのも、映像に派手なVFXがないのも、必然。これは外科手術ではなく温泉湯治の世界。いわば見る湯治なのだ。
この世界の蟲とは、現存の生物とは異なる生命体。蟲と人間はそれぞれただ棲息しているだけなのだが、その2者が接したときに、人間にとって不都合な現象が生じることがある。その不都合を解きほぐすのが蟲師。彼らの役目は蟲の撲滅ではなく、人間と蟲それぞれが出来るだけ不都合なく共存する道を探ることだ。
なので、病は治らない。病と共に生きていく方法が見い出されるのみ。深く損なわれた者は、ただだらだらと食べては寝て、温泉に漬かったりしているうちに、いつとはなく生き続ける気持ちになっていることに気づく。
しかし治癒とは本来そうしたものではなかったか。これに「肯」と答えるDNAの記憶を呼び起こすため、映像は終始、今も変わらない日本の山野、日本の緑を映し続ける。VFXは極力排し、例えば虹が出現するときもよくみれば虹に見えるという淡い色調。原作コミックの「泣き」が排してあるのも、激しい感情の起伏は温泉湯治には邪魔になるからだ。
画面に身を委ねれば、樹木に囲まれたぬるめの温泉にゆったりつかった気持ちになれる。
(平沢薫)