劇場公開日 2003年6月14日

KILLERS キラーズ(2003) : インタビュー

2003年6月16日更新

押井守監督最新作……と言えば多くの映画ファンの気を引くかもしれないが、現在製作中の「GHOST IN THE SHLL/攻殻機動隊」の続編「イノセンス」ではない。それはなんともマニアックな銃をテーマに描かれたオムニバス「KILLERS」の中の1本にあった。脚本を担当した短編アニメ「ミニパト」の中でも、銃に対するウンチクを如何なく発揮した押井監督のこだわりが、ぎゅっと詰まった1本なのだ。

押井守監督インタビュー

こだわりが凝縮した、たった20分の監督作品

編集部

押井守監督
押井守監督

ガンマニア雑誌、月刊Gunの自主映画コンテストから生まれた企画から出発したのが、この「KILLERS」である。予算は一律600万円、上映時間20分、珍しい銃を1つ以上登場させる、という条件のもとに新人からベテランまで5人の監督が腕を競うオムニバス・アクションである。その中の1エピソード「.50 WOMAN(ハーフ・ウーマン)」を手がけたのが、「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」「アヴァロン」で世界的にも知られる押井守監督だ。

ストーリーは単純明快。女スナイパーがビルの中でターゲットを待ち狙撃を終えるまでを淡々と描いただけだ。

「予算と日数に限りがあるから、まず録音を省いた。そしてセットを最小限に抑える」

驚くべきことに主演の仁乃唯は、現在は音楽や俳優の活動をしているが、以前はショーパブ勤務のニューハーフ。つまり声は男性そのものなので、セリフがないのは好都合だった。そしてセットはビルの一室だけにした。ただ、スナイパーは待っている間にコンビニで買ってきた菓子パンやおにぎりを30種類以上食べ続ける。

女スナイパーを演じる仁乃唯とライフル
女スナイパーを演じる仁乃唯とライフル

「スナイパーがターゲットを待っている間、一体何をしているのか、というのがそもそもの出発点。そして、僕は食事のシーンを撮るのが好きなのと、一度コンビニのパンを全種類食べてみたい欲求があったから。最初はビルの部屋に次々と出前がやってくる設定も考えたが、人件費がかさみ予算超過になるために菓子パンとおにぎりの形になった」

こんな短い作品にも監督の工夫とこだわりが生きている。それが銃のことになるとなおさらだ。

「これはM500アンチ・マテリアル・ライフルというもので、もともとは戦車や装甲車の車体を撃ち抜く時に使う兵器。口径が1インチの半分であることと、ニューハーフをかけたのがこのタイトルになったんだ。だいたい日本にライフルを構えて絵になる女優さんっていない。この銃だって特注の削り出しで重量があるから、物理的にも女性では持ちきれない。その時に気付いたんです、女に見えれば女じゃなくてもいいんだ、と」

悪徳プロデューサー役の鈴木敏夫氏(中央)
悪徳プロデューサー役の鈴木敏夫氏(中央)

そんな過程を経てクランクインした押井組。そして今回の最大のサプライズは、標的の悪徳アニメ・プロデューサーとして登場する、スタジオジブリの鈴木敏夫氏その人だ。

「まあ、低予算だからこその人脈、というべきでしょうか。もともと僕の持論として権力者は破滅指向があると思うんです。だからあんな風に狙撃される役柄でも、気に入って引き受けてくれましたよ」

「あんな風」と言うには余りにも衝撃的なスナイプ。それは劇場で体感することをお薦めします。

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