劇場公開日 2003年10月25日

キル・ビル : インタビュー

2003年10月14日更新

世界が認める映画オタク、クエンティン・タランティーノ監督が満を持して完成させた「キル・ビル」。タランティーノは、クールなヒロインの壮絶な復讐の旅を自らの映画体験のありったけを詰め込んで描ききったというが、「元ネタなんて知らねー! わかんねー!」な諸君も少なくないはず。もちろん「キル・ビル」だけでも楽しめることは間違いない。だが、元ネタを知っていれば明日の蘊蓄王の座は君のもの。そこで今回は、タランティーノ自らが明かす「元ネタ辞典」を大公開! 「ボリューム2」が待ちきれないアナタもこれを読んで元ネタ予習に励むべし!(聞き手:町山智浩)

クエンティン・タランティーノ監督インタビュー
「『キル・ビル』はオイラの映画の記憶だけで出来たおとぎの国なのさ!」

クエンティン・タランティーノ監督
クエンティン・タランティーノ監督

――次から次に笑激、いや衝撃の場面が続く「キル・ビル」だけど、いちばん驚いたのは東京に向かう飛行機の中でヒロインのザ・ブライド(花嫁)ことユマ・サーマンが日本刀を持って座っている場面だ。座席にはごていねいに刀ホルダーが付いていて、他の乗客もそこに刀を差している! いったいどういうこと!?

タランティーノ(以下タラ):「気にすんなって(笑)! あれは現実社会じゃないんだから。『キル・ビル』の世界ではみんな日本刀を持ってるんだ。これは、ムービー・ムービー・ユニバース、つまりオイラがガキの頃に観たいろんな映画の記憶だけで出来たおとぎの国なのさ!」

――というと具体的にはどんな映画?

タラ:「70年代のエクスプロイテーション(キワモノ)映画だ。オイラが思春期の頃、住んでいたサウス・ベイ地区には古い映画館がまだいっぱい残ってた。ドライブイン・シアターとか、グラインドハウスだ(元はストリップ劇場のことだが、70年代には3本立ての安物映画を上映する場末の映画館のことを指した)。そこでは60年代のマカロニ・ウェスタン、香港のカンフー映画、日本の時代劇やヤクザ映画、それにロジャー・コーマンが作ってたブラックスプロイテーション映画をボロボロのフィルムで上映してたんだ。UHF局や深夜のTV映画劇場でもそういう映画をいっぱい観た。どれもハリウッド製の映画と違って、セックスと血みどろバイオレンスが山盛りの復讐の話ばっかりだったけど、とにかくガンプレイやカンフー、チャンバラの撮り方がスタイリッシュでカッコ良かった。そういう映画の記憶が30年間、オイラの頭の中でぐるぐるし続けてるうちに熟成して(笑)できあがったのが『キル・ビル』なんだ」

チャイナ服で撮影中のタランティーノ
チャイナ服で撮影中のタランティーノ

――僕は同じ学年(笑)だから「キル・ビル」はツボに入ったなあ。たとえばゴーゴー・夕張が振り回す鉄球からジャキーンって刃が飛び出すと一瞬だけ「片腕カンフー対空飛ぶギロチン」の挿入曲が流れるでしょ(笑)。

タラ:「あの曲、イカスよな! ♪ボイング! ボイング! ボイング!って(笑)」

――でも、そんなクイズみたいなこと、普通の人はわからないよ(笑)。

タラ:「いいんだよ。オイラはまず自分が観たい映画を作って、ついでにそれを一般にも公開してるだけだから(笑)。ただ、スタッフや俳優にはオイラが何をやりたいかわかってもらえないと困るから、元ネタのビデオを個別に見せて説明したよ。たとえば……(次ページのタランティーノ自ら明かした「キル・ビル」元ネタ辞典参照)」

――(元ネタの確認を終わって)ふう。これ、見せられるほうは大変だよね(笑)。

ダリル・ハンナ(左)と
ダリル・ハンナ(左)と

タラ:「ダリル・ハンナに見せた『They Called Her One Eye』は本番シーンのあるハードコア・ポルノで、彼女、それまでポルノ観たことないからショック受けてたな(笑)」

――それ、立派なセクハラだよ(笑)。で、「キル・ビル」の試写を観てる間、後ろの席で監督自ら爆笑してたけど、これって笑っていい映画だよね?

タラ:「もちろん! でも笑わせたいだけじゃない。たとえばクライマックスの斬り合いは三隅研次監督の『子連れ狼/三途の川の乳母車』(72)の再現なんだけど、『子連れ狼』は血が何百ガロンも噴き出すんで思わず笑っちゃうけど、同時にシリアスで怖い迫力はあるし、詩的な美しさもある。70年代のカンフー映画や、マカロニ・ウェスタンはみんなそうだ。バカバカしいけど真剣にカッコいいし、泣けるんだ。君やオイラたちの世代はそういう同時多発的感覚をよく知ってるけどさ、今の若い観客には『キル・ビル』が初めての経験になるんじゃないかな」

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