ジャーヘッド : 映画評論・批評
2006年2月7日更新
2006年2月11日より日劇1ほか全国東宝洋画系にてロードショー
これまでの戦争映画とは決定的に異なる痛み
湾岸戦争ではハイテク兵器が威力を発揮し、地上戦はわずか4日で終了した。デイビッド・ハルバースタムは「静かなる戦争」のなかで、「国民の大多数にとっては、いわば「バーチャル戦争」のようなもので、戦闘に巻き込まれたり、犠牲になったりした人間がほとんどいない「非現実」の世界であった」と書いている。「ジャーヘッド」は、この見えない戦争の現実を描き出す。広大な砂漠に敵の姿はなく、主人公は自分や仲間との戦いを強いられる。
そして、そんな現実をさらに際立たせるのが、ベトナム戦争のイメージだ。この映画では、「プラトーン」のようにひとりの若者の視点を通して戦争が描かれ、彼は「フルメタル・ジャケット」を想起させる訓練によって銃と一体となる。兵士たちは、基地で上映される「地獄の黙示録」の戦闘シーンに興奮する。そして、仲間の妻から退屈な砂漠という戦場に送られてきた「ディア・ハンター」のビデオには、彼女の浮気現場が録画されている。
主人公が基地で読んでいたのはカミュの「異邦人」だったが、彼は地上戦で一度も撃つことがない。だが、彼が予想もしなかったであろう体験からは、これまでの戦争映画とは決定的に異なる痛みが確かに浮かび上がってくるのだ。
(大場正明)