アイ,ロボット : インタビュー
最新のVFXを駆使したアクション大作である一方、“ロボット3原則”という深遠なテーマに挑んだアレックス・プロヤス監督。彼が本作に込めた思いはどこにあるのだろうか? 町山智浩氏が監督にインタビューした。
アレックス・プロヤス監督インタビュー
「この映画のロボットは、差別されている人々すべての象徴なんだ」
町山智浩
「アイ,ロボット」はアイザック・アシモフの短編集「われはロボット」が「原典」とクレジットされているが、そのことを監督のアレックス・プロヤスに聞いてみた。
「まず20世紀フォックスからジェフ・ビンターという脚本家が書いたオリジナル脚本『ハードワイヤー』を監督しないかというオファーが来たんだ。読んでみるとロボットが殺人を犯す話だった。ロボット3原則で人を傷つけることが禁じられているはずなのにどうして? というミステリーさ。もちろん、ロボット3原則は『われはロボット』で提唱されたものだ。僕はもともとSFファンだったから、この脚本を『われはロボット』の1エピソードのように映画化できないかと考えたんだ。で、シナリオを練り直すのに5年もかかった。仕上げはアキバ・ゴールズマン(『ビューティフル・マインド』の脚本家)に参加してもらった」
タイトル・ロールのロボット、「わたし」という自我に目覚めるロボットはサニー。これは「アトランティスのこころ」などに出演している若手俳優アラン・テュディックが演じた。
「アランには普通にウィル・スミスと演技してもらった。ただ全身緑のスーツを着てね。それを後でCGIのロボットに置き換えたんだ」
サニーは半透明の白いプラスティック・カバーとブルーの部品のコンビネーションで、iMacによく似ている。
「そうだよ、I, RobotはiMacなのさ(笑)。半透明のカバーをつけようってアイデアは僕が出したんだ。デザインは『ダーク・シティ』でも組んだパトリック・タトポロス(『ゴジラ/GODZILLA」』など)だけど、彼と話し合って決めたのは月並みな外骨格のロボットは絶対にやめようということだ。そこで球体間接とむき出しの人工筋肉を組み合わせることにした。さらにハンス・ベルメールの人形とか、自動車の衝突実験用のクラッシュテスト・ダミーとか、いろんなアイデアを組み合わせてみたんだ」
「アイ,ロボット」の後半、ロボットたちの反乱が始まる。これは同じ20世紀フォックスのヒット作「猿の惑星」を連想せずにはいられない。
「特に奴隷にされた猿が反乱を起こす『猿の惑星/征服』だね。当然、それは頭にあったよ。『猿の惑星』は黒人問題のメタファーだった。『アイ,ロボット』ではウィル・スミスを主演にしているから、アメリカの観客は人種問題を意識せざるを得ないだろうね。でも、この映画のロボットは黒人に限らず、差別されている人々すべての象徴なんだ」
エンディングでサニーが砂漠に立つイメージは、ユダヤの民を率いたモーゼを思い出させる。
「砂漠に立つ救世主というのはモーゼでもあり、キリストでもあり、マホメットでもある。サニーがロボットの民を善導していくことを暗示している」
続編を期待させるエンディングだが。
「これがヒットしたらね(笑)。試写にはアシモフの娘さんにも来てもらって、彼女も喜んでくれたよ。アシモフのロボットものには『鋼鉄都市』がある。『鋼鉄都市』は、人間の刑事とロボットがコンビを組む物語だから、同じくウィル・スミスとアラン・テュディックのコンビで映画にしたいね。『われはロボット』よりもずっと未来の話で、ロボットの外見は人間と変わらないほど進化しているから、今回せっかく熱演したのに全部CGIにされちゃったアランに恩返しできるし(笑)」
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