「無間地獄に終わりは来るのか?」インファナル・アフェア TSさんの映画レビュー(感想・評価)
無間地獄に終わりは来るのか?
「警察」対「犯罪組織」という構図は、世界中の小説などの文芸作品で、映画やドラマといった映像作品で無数に題材として取り上げられている。1つのジャンルとして確立していると言ってもよいだろう。そこには、一般人が体験できないスリリングな世界がある。あると思わせる魅力がある。
しかし、本作のテーマは、「警察」対「犯罪組織」の手に汗握る攻防ではない。
素性を隠して対立組織に潜入し続ける2人の男の苦悩。ある1つの事件をきっかけに、互いに組織の中で素性が暴かれそうになる(=死)ことへの恐怖。そしてこの無間地獄から抜け出すために下したそれぞれの決断と行動。それらをテンポ良く描くクライム・サスペンスドラマ。
犯罪組織の一員として闇の世界で失われた10年を生きる潜入捜査官ヤン(トニー・レオン)。
警察で頭角を表し、私生活も充実しているマフィアの一員ラウ(アンディ・ラウ)。
2人の生き様は対照的に描かれる。悪の中で最後まで善たらんとするヤン。善の中で悪に加担するラウ。トニー・レオン、アンディ・ラウの2人がそれぞれの持ち味発揮の演技でスリリングな世界に引き込む。トニー・レオンは独特の憂いを含んだ表情と佇まいで。アンディ・ラウはキリッとした姿の中にふとよぎる不安の表情を。どちらも抜群の演技力。
そして鋭い視線の中にヤンへの信頼を見せるウォン警視を演じたアンソニー・ウォンと憎めない顔をして抜かりない犯罪組織のボス、サムを演じたエリック・ツァンの演技も見事。
印象に残るシーンは、ウォン警視、ヤン、ヤンの仲間、サムの死に様。それぞれの死に様が何故か脳裏に残る。それぞれ重要な役どころなのに、どれもあっけない死に方、描き方なのだ。無常観が漂う。
終わりの見えない無間地獄の中に束の間の幸せを感じさせる女性たち。精神科医役のケリー・チャンとトニー・レオンの関係が深まりを見せることなく終わってしまったのが、ケリー・チャンが好きだった私としては若干残念だった。
死んでから「善」を回復したヤン。果たして、生き残ったラウは過去を消して「善」に成りきれるのか?
続編を観るまで終わらない。