「大人になってからでも面白い」ハリー・ポッターと賢者の石 葵須さんの映画レビュー(感想・評価)
大人になってからでも面白い
子供の頃に見た。姉が本を読みだしてそれを読ませてもらいはまり、それから映画も楽しんだ少年時代。今になって、ファンタスティック・ビーストを二作見終えてちょっと見直してみたいなと思いDVDを借りて鑑賞。最近ジブリの『千と千尋の神隠し』についても大人になってから見てそこまでは楽しめなかった事からこっちはどうかなと思いながら見たのだが、こちらは面白かった。何が違うのか?今考えて思いついたのは、ハリーポッターが最悪な人生からの成り上がりと周りからの称賛といった、主人公のエゴの充足と拡大がストーリーラインにある物語であるのに対して、千と千尋の物語の千尋は、千尋は心は成長するのだが、より強くなったり、周りから称賛されたり、そういうところに向けたベクトルが全く無かった。最近自分がいろいろハマって読んでいる異世界転生系は全て成り上がりで社会に認められない自分がみんなに称賛され羨望され求められる物語ばかりだ。そういうところを考えていくと、なんで子供の頃は千と千尋の物語を楽しめたのだろうか?と疑問に思う。一つは現実では味わえないファンタジックで新しい体験であったからで、もう一つは子供の頃はそんなに周りと自分を比較しておらず、自分の惨めさを悲観もしておらず故にエゴを喜ばすエンタメと精神性にフォーカスしたエンタメのインパクトに差異はなかったためかだろうかとなんとなくだが思う。
話を今作に戻す。所々子供向け的な演出、きどったセリフ回しが劇場的に表現されているが、それを実感しながら鼻につかず、なぜか物語にのめり込めている。理由は不明だ。強烈な個性をもつ登場人物たちと魅力的なファンタジー世界観に目を奪われてリアリティについて考える暇がないのかもしれない。感情を起伏させるストーリーラインの浮き沈みがちょうどよくよい塩梅で流れていくからかもしれない。
物語は子供向け冒険物語やおたく文化にありがちなように主人公周りの登場人物周りに情報や事件がやや都合がよいなと思われる程度に収束しながら物語は進み、キーアイテムや大悪党との邂逅、決闘に向けて進んでいく。こういうふうに悪い点ばかり羅列しているが、面白かったのだ。時間があるときに何故面白いのか考えていきたいと思う。
その他として、この作品がその後の日本のおたく文化における創作物に与えた影響は大きいという事を再認識した。