ジョージ・マイケル 素顔の告白 : 特集
80年代の音楽を扱った2本のゲイが主題の映画~「TABOO」
文・構成:わたなべりんたろう
「TABOO」はボーイ・ジョージの自伝的舞台を映画化した作品で、ロンドンで上演されているのを観た女優のロージー・オドネルが気に入り、ブロードウェイでも上演されたほど評価の高い舞台である。ゲイであるボーイ・ジョージがロンドンのクラブシーンで話題の人物から、カルチャー・クラブで世界的に成功するまでを描いている。カルチャー・クラブが出てきたのは80年代前半のイギリスの音楽シーンのニューロマンティックの流れからだった。ニューロマンティックの代表的なアーティストにはデュラン・デュラン、スパンダー・バレエなどがいて、当時の音楽シーンの裏側がのぞけるのがとても興味深い。ボーイ・ジョージ役の役者が本人にとても似ているのも見物だが、ボーイ・ジョージ演じる伝説のアーティストのリー・バウリーが圧倒的だ。AIDSで亡くなる人物なのだが、露悪的なメイクでアート作品も悪趣味スレスレのキッチュな作品で知られ、生き急いだ人物である。ボーイ・ジョージの熱演が胸を打つ。「TABOO」ではボーイ・ジョージのドラッグ問題も描かれるが、上記したように最近になって、またもやボーイ・ジョージがドラッグ所持で逮捕されるので痛ましい限りだ。しかも、その事件では空巣に入られたのを警察にボーイ・ジョージ本人が通報して、駆けつけた警官に空巣の調査をされていたときに麻薬が見つかったというものだった。「TABOO」の舞台及び、この映画で成功を再度大きくつかもうとしていた時機に人生の皮肉さを感じさせる。
共にゲイであることも大きな主題になっていて、ジョージ・マイケルは隠し通そうとしたが、ロサンゼルスの公衆トイレの猥褻行為での逮捕の後は、逆手にとるようにゲイであることを積極的に押し出していくことで「正直な人物」として好感度を挙げていく。もちろん「正直な人物」なだけでなく、アーティストとして素晴らしい曲を作り続けてきたこともあるのだが。ボーイ・ジョージの場合は、ゲイであることから家も出ることになり、ゲイゆえの感性のファッションでクラブシーンで頭角を現していくが、好きになった男がゲイでなくストレートであったことから悩みを抱えていくことになる。トリビアだと、「TABOO」では描かれていなかったが、カルチャー・クラブの解散はボーイ・ジョージがドラムのジョン・モスに完全に振られたことが大きな要因だったらしい(ボーイ・ジョージはマッチョ系の男性が好きなようで、同じくドラムでU2のドラムのラリーも好きだとインタビューで答えたことがある)。
この2本とも80年代の音楽を聴いていた人も、今の80年代ブームで80年代に興味をも持っている人も、ゲイに興味がある人もきっかけは何であれ、見応えのある作品である。
今後のゲイ・カルチャーの展望を見ると、映画では上記の2作品で終わらないことがよく分かるのが、今年になってアメリカではゲイを扱った注目作があることだ。まずは「Happy Endings」 (05)で、この作品は「偶然の恋人」(00)のドン・ルース監督の新作であり、リサ・クードロウ、スティーブ・クーガンの出演で、若い女性と彼女のゲイの義弟のストーリーが扱われている。また、ゲイの男性の帰郷を描いた秀作「Big Eden」 (00)で注目されたトーマス・ベズーチャ監督の新作「The Family Stone」(05)でもゲイを取り上げている。「Big Eden」の評価の高さから「The Family Stone」の出演者はメインストリームのスターになっていて、クレア・デーンズ、ダイアン・キートン、レイチエル・マクアダムズ、サラ・ジェシカ・パーカー、ダーモット・マローニーなどである。他にも何と言っても注目なのが、今年のベネチア映画祭でグランプリの金獅子賞を獲得し、アカデミー賞有力候補と話題になっているアン・リー監督の「ブロークバック・マウンテン」(05)である。開拓時代のアメリカでの男性同士の友情を超えた許されない愛を繊細に描いた作品で、日本でも2月以降に公開予定である。