ファム・ファタール(2002) : インタビュー
2回見なくちゃ醍醐味がわからない「ファム・ファタール」のブライアン・デ・パルマ監督は、なんと自分も<映画は何度も観る>を実践していた! 渡辺麻紀氏がロサンゼルスでデ・パルマ監督にズバっと切り込むインタビュー。本当のところ、毎度「ヒッチコック」を云々されるのはどうなのか? かなり本音で答えていると見た!
ブライアン・デ・パルマ監督インタビュー
「観客の目の前で幻想を作り出す――それこそが映画監督の仕事だと思っている」
渡辺麻紀
心配だった。かつて「ミッション・トゥ・マーズ」」のとき、ロスまで行ったのに、インタビュー直前5分前にドタキャンをくらった身にとっては、ブライアン・デ・パルマが現れるのか、気が気じゃなかった。だが、果たして彼はやってきた。時間どおり、しかもひとりで現れ、挨拶もほとんどなくソファに座ってしゃべりはじめたのだ。それも熱っぽく、映画青年の素顔を覗かせながら。
――「ファム・ファタール」はニ度見るからこそ楽しめる映画です。それはかなりチャレンジングなのでは?
「いや、そもそも映画と言うものは一度見るだけではすまされない芸術形態なんだ。優れた映画の多くはストーリーテリングが複雑だったり、一度では理解出来ないものだ。そもそも面白い映画は、それがたとえどんなものであっても何度も見たくなると、私は思っている。私のこの映画も繰り返し見られる映画だよ」
――では、あなた自身が何度も繰り返し見ている映画は何ですか。
「たくさんある。『めまい』『赤い靴』『アラビアのロレンス』『深夜の告白』……年に一度は見直しているかな。
――「めまい」と言えば、今回もそっくりの女性が登場します。やはりアイデアはヒッチコックから?
「ノーノー! みんな勘違いをしているよ。私がいつも、ヒッチコックの映画を見ながらアイデアを練っていると思っているようだが、全然ちがう。私は自分の生活や経験のなかからそれを見つけるんだ。今回は、フイレンツェに旅したとき、私の兄と瓜二つの人物を見つけたのがきっかけだし、カンヌ映画祭で宝石を盗むというのも、私が『ミッション・トゥ・マーズ』で映画祭に参加した経験からだ。女優たちが豪華な宝石を身に着け、ガードマンが警護していたのが面白かったからだ」
――じゃあ「めまい」は関係ない?
「いや、あるがね……。ヒッチコックが素晴らしいのは、観客の目の前で幻想を作り出すところだ。私は、それこそが映画監督の仕事だと思っている。私たちはロマンチックな幻想を作り出すんだよ。美しくミステリアスな女性もスクリーンのなかだけに存在する。それが映画スターというものの本性だ。マリリン・モンローはセルロイドで出来た創造物なんだよ。だから映画は、観客の目に焼きつくんだ。これこそが映画とは何かという素晴らしい答えだと、私は思うね」
――あなたと言えばヒッチコックです。そう言われるのにうんざりすることは?
「私の作品と、ヒッチコックの作品についての非常に明白な意見だね。私がなぜヒッチコックに惹かれるかと言えば、彼はストーリーを語るためにシネマをどう使うかということをもっとも理解しているからだ。私もそう考えていたから、すぐに反応したんだ。50年代から彼の映画を見始めたが、やはり一番印象に残っているのは『めまい』だ。そのまえに『泥棒成金』も『裏窓』も見ていたけど、やはり『めまい』が最高だね」
――ガス・ヴァン・サントが作った「サイコ」はどう思いました?
「あれは、いかにヒッチコックが素晴らしいかを知るいいレッスンになったよ。ヒッチをそのままコピーしたというけど、本当のヒッチはコピーなんて出来ないということの証明になった。同じ場所にカメラを置き、同じショットをつなげてもヒッチにはならない。なぜなら、そこにコピーなど出来ない、彼独自のマジックが働いているからだ。だからこそ、彼は偉大な監督なんだ」