「現実のメタファー」エターナル・サンシャイン あんどぅさんの映画レビュー(感想・評価)
現実のメタファー
主人公ジョエルは、元恋人クレメンタインが記憶を消す施術を受けて自分との過去を忘れてしまったことにショックを受け、自分もクレメンタインとの記憶を消そうとする。
記憶を消すためには、その記憶にまつわること全てを一度思い出し、医師がその記憶をマッピングする必要がある。そして、そのマッピングされた記憶を頼りに、患者が寝ている間に記憶を消去していく。
消されかけて混濁する記憶を表現しようとしているために、一見わかりにくい話になっている。(あとなぜか登場人物がみんなクレイジー)
思い出せる全てのことを思い出すという過程を経て記憶を消すという設定は僕はとても好きだ。なぜなら、その設定は、この映画のように特別な力を借りてまで消したいと思う記憶は同時にそれだけ強い関心を持ってしまっているという、逆説的な状況のメタファーになっているからだ(映画内でもそういったことは指摘されていたような…(曖昧))。だから、登場人物たちは記憶を消した後も、記憶を消す前と同じような行動を取ってしまう。
この映画のSF的な設定は非現実的ではあるが、その設定は「忘れたいと思っていることほど実は関心を持っている」という(失恋した時とかによく経験する)現実的な問題を扱っている。そう考えると、この映画はただのよくわからない機械を使ってよくわからない医者が怪しげな施術を患者に施す映画ではなくなる。むしろ、現実に僕たちが経験する苦悩や葛藤、逡巡を表している。
こうした葛藤を映像として表現するのはなかなか難しいことだと思う。もちろん、主人公の独白として語らせることはできるが、そんなものをわざわざ映画でやる必要はない。エッセイや小説でも書いていればいい。
しかし、この映画は、そうした忘れたい過去に悩まされる人間の思考をそのまま映像にしようとしている。だから、例えば、記憶のイメージが混濁し混ざってしまっていたり、現実でも記憶でも同じことを反復したりする。
そういう意味で、人が忘却のために苦悩する様をこれだけうまく映画に仕立て上げている映画は他にあまり例はないんじゃないかと思う。あと、最後にちゃんと苦悩から抜け出す道を教えてくれる優しさも持ち合わせているし。
魔法少女まどかマギカのループ感が好きな人だったら割と気にいるんじゃないだろうか。構成とか、テーマに共通点は多いと思う。